2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K16882
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
寺尾 勘太 東北大学, 生命科学研究科, 学術研究員 (90825449)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶 / 学習 / ショウジョウバエ / ドーパミン / 受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
過去の経験に応じて記憶を形成することは重要であり、その神経メカニズムはよく研究されてきた(Waddell, Curr. Biol. 2016) 。一方で、記憶と現実にズレが見つかった場合は、過去の記憶を修正し、現実に即して行動することもまた重要である。しかし、記憶の修正を司る神経回路に関しては不明な点が多い。 ほ乳類では、報酬と連合された刺激に脳内ドーパミンニューロンが応答し、記憶の修正にも関与することが知られている (Schultz, Annu. Rev. Psychol. 2006) 。ほ乳類と昆虫の連合学習におけるドーパミン系の重要性を鑑みて、申請者は、昆虫でもドーパミン系が記憶の修正に寄与する、との仮説を立てて検証を行った。予備的な実験の結果、野生型のハエではスクロースと結びつける訓練を行った匂いとコントロールの匂いの選択テストにおいて、テスト開始時にはスクロースと結びつける訓練を行った匂いを選択する個体が多いものの時間経過とともにその割合は減少した。一方、D2Rドーパミン受容体変異体は野生個体に比べてスクロースと連合した匂いの選択が持続していた。本結果は記憶の修正機能の破綻を示唆する。 記憶の修正におけるドーパミンシグナルの重要性は明らかであるものの、それを司る脳回路はいまだ不明である。そこで申請者は【記憶の修正は、脳内のどのような回路で制御されるか?】を調べる本計画を立案した。2019年度はドーパミン受容体が記憶の修正に関与する可能性について、予備データが得られたD2Rに限らず、ショウジョウバエが有するドーパミン受容体4種類について網羅的な検証を行った。具体的には、ゲノムからドーパミン受容体を欠損した変異体を用いた行動実験を行った。結果、D2R以外に1種類のドーパミン受容体が記憶の修正に関与することを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本計画では1.ドーパミン受容体変異体を用いた、記憶の修正に必要なドーパミン受容体の特定と2.RNAi 法を用いた、記憶の修正に重要な受容体発現回路の特定 を計画していた。1は順調に進行したものの、2については計画の進行は不十分である。 1では記憶の修正にかかわるドーパミン受容体を行動実験によって同定するために、ショウジョウバエの4種類のドーパミン受容体(DopR1, DopR2, D2R, DopEcR) の特異的な変異体を用意し、選択行動の修正を定量する計画であった。記憶の修正にかかわる受容体変異体でのみ、スクロースと結びつけて訓練した匂いの選択が持続(ないし減衰)すると予想し、実験を行った。結果、D2R以外の1種類の受容体でD2Rと同様の匂いの選択の持続を示唆する結果を得た。記憶の修正に必要なドーパミン受容体は複数存在することが明らかになった。今後、それぞれの受容体がどの神経回路で機能しているかを研究する必要がある。 2019年度に申請者は病を患い、心身が不調であった。結果、残念ながら研究計画2は十分に進行していない。神経回路の制御に必要なショウジョウバエの系統の選定を行い、一部の系統を取り寄せた。実験に必要なショウジョウバエの掛け合わせを行い、実験の前提となるハエの絶食時間の検討を行った。しかしながら、記憶の修正に必要な行動実験の実現には至っていない。今後、記憶の修正に必要な受容体がどの神経回路で機能しているかを研究するために、記憶中枢キノコ体をはじめとする脳内の微小回路で受容体の発現を抑制した際の記憶の修正に対する影響を検証する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度より申請者は東北大学から東京医科歯科大学へと異動した。異動に伴って研究環境が変化したため、申請者が直接、医科歯科大学でショウジョウバエを実験動物とすることは困難である。前所属である東北大学との協力関係は維持するため、ハエの実験は主に東北大学が実行する。 そこで申請者は新たにフタホシコオロギを実験動物とする研究計画を立案した。フタホシコオロギは、薬理学的な実験が容易で、遺伝学的制御に比べて時間解像度の高いドーパミン受容体阻害実験が容易な点でショウジョウバエと比べて本研究計画に適する。 コオロギでは記憶の修正を検証する手段として消去学習を用いる。消去学習の手順の概要は以下のとおりである。1. コオロギにミントの匂いと水提示することで、ミントの匂いに対する接近行動を学習させる。 2. ミントの匂いを単独で提示する訓練を行う。訓練の結果、ミントの匂いに対する接近行動が訓練前に比べて抑制される。消去学習の成立を示す予備的な実験結果は既に得られている。2020年度は1. 消去学習の性質を行動実験で詳細に検証すること 2. 消去学習にドーパミンが関与するか検証すること を目標とする。 1では1-a. 消去学習の結果を確認する方策を2種類比較することで、結果の頑健性を検証する 1-b. 消去学習に伴う接近行動の変化を訓練毎に検討する ことを計画している。2ではドーパミン受容体の阻害剤を用いて消去学習にドーパミン系が影響するか検証することを計画している。 さらに、ほ乳類と昆虫の直接比較を試みるためにラットを対象とした研究計画を検討中である。他大学との共同研究を必要とするため、研究計画の詳細の打ち合わせを進めている。必要に応じて研究予算と時間をラットの計画にも振り分ける。
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Causes of Carryover |
2019年度7月より申請者は心身の不調のため、予定より短時間の研究しか実行できない状態にあった。したがって、当初予定より予算が消費されず、次年度使用額が生じた。 2020年度は心身の状態が一定の回復を見たため、研究を行う。予算は主に新たに計画したコオロギの飼育費用、行動実験用資材の購入、薬品購入および発表のための旅費や投稿費用に充当することを予定している。
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