2020 Fiscal Year Research-status Report
痛みに応答する一次体性感覚野神経細胞の不安障害及び睡眠障害への影響
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19K16909
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
石川 達也 金沢大学, 医学系, 助教 (00750209)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 疼痛 / 不安様行動 / 大脳皮質一次体性感覚野 / DREADDシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、痛覚認知に重要な役割を果たすと考えられている大脳皮質一次体性感覚野(S1)が不安様行動や睡眠障害にも関与するか検討することを目的としている。これまでに痛みに応答したS1の神経細胞にのみ化学遺伝学的手法(DREADDシステム)が構築されたマウスを用いた研究成果から、痛みに応答したS1の神経細胞は少なくともS1は痛覚認知だけでなく不安様行動にも関与していることが行動薬理学的手法から示唆されていた。 令和2年度では、痛みに応答したS1の神経細胞の神経活動をDREADDシステムにより興奮させると、(痛みに応答したS1の神経細胞が投射する複数の脳領域のうち)視床で最初期遺伝子であるc-Fosの発現亢進を免疫組織学的手法により見出した。また、この視床特殊核におけるc-Fos陽性神経細胞は痛みに伴う情動に深くかかわるとされる前帯状回(ACC)に投射しているか次の方法で作製したマウスを用い検討した。2種類のアデノ随伴ウイルス(AAV: cfos-Cre, hSyn-DIO-hM3Dq-mCherry)をS1に、逆行性に神経細胞をトレースすることが可能なAAV(retrograde-hSyn-GFP)をACCに注入し当該マウスを作製した。このマウスに人工リガンドであるCNOを腹腔内投与した際、視床内側核内のc-Fos陽性神経細胞がACCに投射していることを免疫組織化学的手法により見出した。さらに、この視床の内側核が不安様行動に影響を及ぼすか行動薬理学的手法等で検討し、当該領域が痛みに伴う不安様行動に重要な役割を果たすことが示唆された。 以上の結果から、痛みに応答したS1の神経細胞はS1から視床内側核を介したACCへの神経回路により不安様行動を誘発している可能性があると示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、痛み刺激に応答したS1の神経細胞にDREADDシステムが構築されたマウスを用い、S1の痛覚認知が不安様行動に影響を及ぼす神経回路を見出し、順調に進捗しているものと考えている。詳細は以下、1)-4)に記す通り。 1) 痛みに応答するS1の神経細胞が投射する脳領域のうち、人工リガンドであるCNO投与によるS1の活性化と同期して視床内側核において最初期遺伝子c-Fosの発現亢進が免疫組織化学的手法により明らかとなった。 2) S1の活性化と同期して活動が亢進した視床の神経細胞(c-Fos陽性神経細胞)の一部は(逆行性のAAVによるGFP標識から)前帯状回に投射していることが認められた。 3) S1の活性化と同期して活動が亢進した視床内側核に対して、電位依存性ナトリムチャネルの阻害薬であるテトロドトキシン(TTX)を投与し、S1と視床内側核間の神経回路が痛みに伴う不安様行動に関与することを行動薬理学的に見出した。また、2)で観察された視床内側核のc-Fos陽性神経細胞の密度はTTX投与により有意に減少していた。 4) 共同研究で進めている2光子励起レーザー顕微鏡によるin vivo2光子カルシウムイメージングにおいてはイメージングのセットアップがほぼ完了した。既にカルシムセンサーであるGCaMP7fを発現したマウスのS1領域からカルシウム活動を計測することに成功しており、今後安定してin vivo2光子カルシウムイメージングが実施できるものと予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法に関して以下1)-3)の実験を実施し、S1の痛みに応答する神経細胞が痛みのみならず不安様行動や睡眠障害等に関与するか行動薬理学的手法を用いて検討してく予定である。 1) DREADDシステムが構築されたS1の神経細胞はCNO依存的にその神経活動を誘導することが可能かin vivo 2光子カルシウムイメージング法で検討する。 2) S1は痛み以外にも触覚や痒み等にも応答することが知られているが、痛み刺激に応答するS1の神経細胞は痒み等の侵害刺激と比べどの様な違いがあるのかは検討が不十分である。したがって、in vivo 2光子カルシウムイメージング法を用いて、痛みに刺激に対するS1の神経細胞の活動を痛みや痒み刺激に対するS1の神経細胞の活動を計測し、神経活動パターン(痛みに応答する神経細胞とそうでない細胞の割合等)を検討する。 3) 痛みに応答したS1の神経細胞種が何か不明であるため、免疫組織化学的手法より抑制性および興奮性神細胞の割合を計測する。 4) S1から視床への神経回路が痛みに伴う不安様行動に重要な役割を果たすか更に詳細に検討するため、次の各アデノ随伴ウイルス(AAV)をS1または視床へ投与したマウスを作製し行動薬理学的手法により検討する。 AAV-cfos-CreをS1、AAV(retrograde)-hSyn-DIO-hM3Dq-mCherry を視床に投与することで痛み刺激に応答したS1の神経細胞の内視床へ投射している神経細胞にのみDREADDシステムが構築されたマウスを作製する。
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Causes of Carryover |
複数の拮抗薬や阻害薬を用いた行動薬理実験を実施する予定であったが、特定の脳領域間のみの神経活動を抑制し痛みと不安様行動の関係をより詳細に検討するためにDREADDシステムを用いた行動実験に変更した。したがって、拮抗薬や阻害薬の購入を見合わせたため、費用を軽減することができた。当該費用は以下①-③に記す通り本年度計画している実験(in vivo 2光子イメージング、免疫染色およびDREADDシステムが構築されたマウスを用いた行動薬理学実験)に使用する試薬や消耗品の購入に充てる予定であるため次年度使用額とした。 ①in vivo 2光子イメージング法を用いて、1)痛みや痒み刺激に対するS1の神経細胞の活動の計測、2)DREADDシステムが構築された神経細胞はCNO依存的に活動亢進するか検討する。本研究は金沢医科大との共同研究のための交通費および当該実験に関わる消耗品購入に充てる予定である。②痛みに応答したS1の神経細胞の種類を免疫組織化学的手法より検討し、抑制性および興奮性神細胞の割合を計測する。本研究に使用する一次抗体および消耗品の購入に充てる予定である。③特定の脳領域間のみの神経活動を人為的時に制御し痛みと不安様行動の関係をDREADDシステム(行動実験)により検討する。本研究に使用するアデノ随伴ウイルス等の購入に充てる予定である。
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