2019 Fiscal Year Research-status Report
老化をHDLで減速させる―早老症ウェルナー症候群から探る老化と脂質のクロストーク
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19K16996
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
山本 雅 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 流動研究員 (40825064)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ウェルナー症候群 / 細胞老化 / HDL / コレステロール |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は(A)「コレステロール(Chol)蓄積が細胞老化を促進する機序の解明」、(B)「HDLを利用したChol排泄療法の開発」に取り組んだ。 (A) ウェルナー症候群(WS)患者血液から超遠心法で回収したエクソソーム、そしてWS及び健常対照者由来皮膚線維芽細胞のlycateからtotal RNAを抽出した。その中に存在するmicroRNAを次世代シーケンサーで定量する工程をかずさDNA研究所に依頼している。また、マウス腹腔マクロファージ(Mφ)にWRN阻害薬のNSC19630を添加したモデルを作成した。本モデルはChol蓄積で細胞老化が促進し、HDLによるChol搬出で老化が抑制された(SA-β-Gal活性で評価)が、insulin like growth factor-1(IGF-1)やmammalian target of rapamycin(mTOR)などの主要な細胞老化シグナル解析結果に偏差が大きく評価が困難であった。そこで詳細な細胞老化機序解明のため、モデルの改良(NSC19630の濃度調節、泡沫化方法の変更)を行っている。 (B) コーヒー飲用が抗動脈硬化・抗老化に寄与するという既報、細胞膜流動性低下は細胞老化とメカニカルストレス応答異常にそれぞれ関係するという既報から着想し、コーヒー含有ポリフェノール及びその腸内細菌代謝物、機械受容チャネル刺激または抑制物質についてスクリーニングを行った。その結果ある一種のフェルラ酸代謝物は0.25 μMでMφからApoA1へのChol搬出を促進することを見出した。また、ある機械受容チャネル抑制物質は0.5 μMから濃度依存的にMφからのChol搬出を促進することを確認した。機械受容チャネル抑制物質のChol搬出促進作用はApoA1およびHDL非依存的であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(A)「Chol蓄積が細胞老化を促進する機序の解明」について、当初2020年度に行う予定であったヒトWS患者線維芽細胞からのmicroRNA-Seqを先行して行うことができた。そのため本年度に結果解析を行い、microRNA mimicおよび阻害薬を用いたChol蓄積または細胞老化促進性のmicroRNA探索に取り組むことが可能となった。WRN-Chol蓄積モデルを用いたChol蓄積による細胞老化促進メカニズムについては現在取り組んでいるが、IGF-1、mTOR経路の解析結果にサンプル間の差が大きく、明確な結果を得るためにモデルの改良を行っている。 (B)「Chol排泄療法の開発」について、当初の予定通りChol排泄促進作用が期待される脂肪酸・ポリフェノールのスクリーニングを行い、複数のChol蓄積抑制物質の候補を同定しえた。2020年度に想定通りこれらの候補物質がChol排泄を促進したメカニズムの解析や抗老化作用の検証を行うことが可能である。 上記理由から、進捗をおおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に取り組んだ(A)「Chol蓄積が細胞老化を促進する機序の解明」を発展させるとともに、2019年に発見したChol排泄促進物質の作用機序を究明し(B)「Chol排泄療法の開発」につなげる。そして、(C)「vivoでのChol蓄積と老化の関連解析」を行う。 (A)2019年度に開発したChol蓄積モデルに加えて、WS皮膚線維芽細胞にCholを蓄積させた細胞の2モデルを用いて細胞老化の形質評価と細胞老化機序の解明を行う。細胞老化の形質評価はSA-β-Gal活性評価、テロメア長(PCR法)などを組み合わせて実施する。細胞老化機序の解明には細胞老化の主要シグナルであるIGF-1やmTORの経路を解析する。また、2019年度に解析を開始したWSのmicroRNA-Seqを施行した結果を分析し、Chol蓄積に関与する可能性のあるmicroRNA候補を拾い上げる。それらのmicroRNA mimic・阻害薬を利用してChol蓄積や細胞老化促進作用のあるmicroRNAを同定する。 (B)Chol排泄を促進する可能性のある物質のスクリーニングを継続するとともに、2019年度に同定したフェルラ酸代謝物、機械受容チャネル抑制物質がChol排泄を促進した作用機序について解明を行う。具体的にはマクロファージにこれらの試薬を添加し、Chol排泄トランスポーターであるABCA1・ABCG1やスカベンジャー受容体の発現量の変化をウエスタンブロット法およびPCR法で比較する。 (C)WRN-KOマウスへ高Chol食とともに生理食塩水またはACAT阻害作用のあるシクロスポリンAを投与し、寿命に差が出るかについての観察を行う。さらに、組織レベル(WSで頻発する同約硬化(プラーク面積)、皮膚菲薄化(組織切片)等)、細胞レベル(老化マーカー解析等)で比較を行う。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究課題はWSをモデルとしてコレステロール逆転送系を促進する物質の探索と細胞老化マーカー開発を目指す国立循環器病研究センターの研究と重複する検討項目が多かったため、その研究費を中心に実験を遂行することができた。これから行うChol蓄積による老化機序の解明やChol排泄促進物質の作用機序の解明、さらにvivoの解析は本研究独自であり、2020年度も継続して使用する必要のある老化評価アッセイキット((SA-β-gal、DNA安定性試験等)購入費用、細胞内シグナル伝達を評価するタンパク解析に要する抗体・Western blot試薬の費用、コレステロール定量試薬購入費用等を繰り越した。 また、当初の予定通り野生型マウス購入および野生型・遺伝子改変マウス飼育費用、個体老化評価に必要な費用(プラーク面積計測・組織切片作成、炎症性サイトカイン測定ELISAキット等)、microRNAの抽出・定量に要する費用、microRNA mimic・阻害実験の費用を計上する。
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