2019 Fiscal Year Research-status Report
β1インテグリン-pMLC内皮透過性制御シグナルによる新規神経疾患治療法の確立
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19K17018
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊澤 良兼 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (90468471)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脳血管障害 / 血管透過性 / 血管内皮細胞 / 血液脳関門 / タイトジャンクション / β1インテグリン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度国民生活基礎調査によれば、脳血管障害、及び認知症は、要介護状態となる原因疾患の第一位、第二位を占め、大きな問題となっている。血栓溶解療法や血管内治療など超急性期脳梗塞治療の進歩が目覚ましい一方で、脳梗塞の発症予防は、いまだ抗血栓療法と血圧管理に依存し、新規治療法は久しく開発されていない。抗血栓療法は脳出血発症リスクと表裏一体であるなど、脳血管障害の治療で解決すべき課題は多く、脳血管性認知症に至っては治療法が存在しない。安全性と有効性を両立した脳血管障害、さらには脳血管性認知症に対する治療の確立は喫緊の課題である。 この課題の解決には「なぜ脳梗塞・脳出血、脳血管性認知症は生じるのか」という根本的な問題を解明しなくてはならない。すなわち、内皮に血栓が生じやすくなる機序、血管が破綻する機序、神経組織が機能しなくなる原因を究明する必要がある。 脳血管障害および脳血管性認知症の高リスク患者では、病理学的に血管内皮細胞間の間隙が拡大し、その発症・病状悪化に、脳血管透過性の亢進の関与が示唆されているが「なぜ、そして、どのように脳血管透過性が亢進するのか、そして脳血管透過性は人為的にコントロール可能なのか」は明らかではない。 申請者はin vitro において、β1 インテグリンout-in signalから起始し、Rho kinase (RhoK)とmyosin light chain kinase (MLCK)を介した、細胞内アクチン骨格制御による新規脳血管内皮透過性亢進メカニズムを世界に先駆けて見出した。当研究では、この研究成果を発展させ、脳血管障害モデルマウスを用いてin vivoでの、RhoK 阻害薬、MLCK阻害薬等による血管透過性亢進抑制効果、脳浮腫・梗塞体積への影響等を評価し、最終的には血管透過性抑制による脳血管障害、脳血管性認知症の新規治療法の確立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由①実験モデルの変更に伴う遅延:研究開始時は申請当初の研究計画に従い、血管内皮細胞が蛍光標識されたTie2-GFP遺伝子組み換えマウスを用い、中大脳動脈虚血再灌流モデル(田村変法)による処置後、二光子顕微鏡下で頭窓(頭蓋骨に設けたガラス窓)からの大脳皮質の観察を行った。計画調書に先行データとして記載したとおり、長時間の虚血後に血管透過性亢進・蛍光物質の漏出が起こる様子が観察されたが、個体差が大きいという問題が生じた。原因として、田村変法により惹起される虚血領域がマウス個体間で差が大きいこと、わずかな虚血曝露時間の差により虚血の程度が大きく左右されることが挙げられた。そこで、脳虚血再灌流に代わる血管透過性亢進モデルとして、脳定位固定トロンビン皮質下注射モデルを採用した。これは我々の過去のトロンビン研究報告に基づいて判断した。この新たな実験モデルで、最適条件決めに時間を要したため研究遂行が遅れた。一方、すでに条件設定は順調に進み、血管透過性亢進の安定した再現が可能となった。計画では2019年度(1年目)にin vitroで血管透過性亢進抑制効果が確認されているRhoK阻害薬、MLCK阻害薬の作用を調べる予定であったが、研究遂行の遅延により、実行に至っていないが、これまでの研究結果から、トロンビン曝露後どのくらいの時間で、どの程度の分子量の物質が漏出するのか、という一連のデータが得られた。また、観察方法についても、当初の計画では一時点での画像評価のみであったが、経時変化を明らかにするタイムラプス撮影が撮影条件の工夫により可能となった。結果的に、上記の課題改善の過程で様々なノウハウ、データが得られたため、実験モデルの変更を含めた研究全体の進捗状況について、遅れはみられるものの、概ね順調と判断される。 理由②二光子顕微鏡の不具合による遅延:一時的に機材不調があったが調整で改善した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進については、実験モデルの変更により、研究全体の進捗状況に若干の遅れはみられるものの、概ね順調と判断されることから、当初の研究申請内容に従い遂行する方針である。 2020年後(2年目)は、2019年度に確立した脳定位固定トロンビン皮質下注射による、脳血管透過性亢進モデルを用いて、より観察数を増やし、トロンビン曝露による影響について様々な観点からデータを総括する。そのうえで、RhoK阻害薬、MLCK阻害薬のほか、現在実臨床で用いられる様々な薬剤が、血管透過性の変化(増大の程度や、透過性亢進時間)、脳浮腫、出血性変化の有無・体積に与える影響を調べる。例えば、トロンビン阻害薬としては、臨床でアルガトロバン、あるいはダビガトランなどが使用されており、これらの投薬は可能である。また、RhoK阻害薬fasudilはクモ膜下出血の治療薬として実用化されている。 研究計画では、β1インテグリンのシグナル経路に着目した血管透過性亢進機序の解明に焦点を当てて記載を行っている。今後使用するトロンビン曝露モデルについて、トロンビンはβ1インテグリン介在性細胞内シグナルと共通の経路で血管透過性に影響することをこれまでに報告している。そのため、トロンビンおよび各種阻害薬を用いた本研究のデータは、研究課題であるβ1インテグリン-RhoKシグナルの血管透過性に与える作用の解明にも応用することが可能である。当研究の目的である「なぜ脳梗塞・脳出血、脳血管性認知症は生じるのか」、「脳血管障害および脳血管性認知症の高リスク患者で観察される、血管内皮細胞間の間隙拡大、脳血管透過性亢進の機序はなにか」という疑問の解決には、脳微小循環における間欠的なトロンビン産生、β1インテグリンの発現変化の双方に着目した取組みが必要と考える。このため上記研究方策は、当初の申請内容から修正はあるものの妥当と判断している。
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Causes of Carryover |
研究遂行段階において、使用予定であった中大脳動脈永久閉塞・一過性虚血モデルを用いたデータ集積が予定通りに進行せず、新たな脳定位固定トロンビン皮質下注射モデルを用いた研究に変更した。また、2019年4月に当研究期間が開始したが、2019年9月から10月ごろにかけて、二光子顕微鏡の不具合が生じ、調整に時間を要した。これらの理由に伴う研究の遅れにより、動物飼育費・実験物品の購入額が減少した。また、研究の遅延に伴い学会発表を十分に行うことがかなわず、その計上費用が不要となった。 今後の使用計画として、2020年度については「研究調書にて当初申請した内容で研究遂行」を計画している。また、COVID-19肺炎による影響が不確定ではあるが、学会発表についても予定している。 これらの事情から、2019年の使用予定額について、2020年度に繰り越しのうえで研究を遂行する予定であり、次年度使用額が生じるものである。
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