2020 Fiscal Year Research-status Report
脳梗塞後慢性期における新規治療としてのグリア細胞由来エクソソームの検討
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19K17020
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
平 健一郎 順天堂大学, 医学部, 助教 (60821725)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 血清由来エクソソーム / 軸索再生 / アストロサイト / peri-infarct area |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの研究において、アストロサイト由来のエクソソームを利用した脳梗塞後慢性期における機能回復は得られなかった。しかしながら、近年、間葉系幹細胞由来のエクソソームにおける脳梗塞後機能回復の報告が散見される。また、脳の炎症性疾患では脳内で産生分泌されたエクソソームが血液脳関門を通過し、全身の炎症に関与する。また、血中に投与された全身を循環するエクソソームが血液脳関門を通過し、脳内環境を整えるという報告がある。そこで、脳梗塞後全血血清中に含有するエクソソームに着目し、脳梗塞慢性期における新規治療としての可能性を検討した。エクソソームはSham(Sham-exo)、脳梗塞3日後の急性期(3-day-exo)、脳梗塞28日後の慢性期(28-day-exo)のWistarラットの全血血清から抽出し、脳梗塞後急性期から亜急性期にかけて、ラットの尾静脈より投与することで、28日後の慢性期における神経徴候と運動機能の改善効果を検討した。また、初代神経細胞培養では各エクソソームを投与することで軸索再生効果の検討を行った。またmicrofluidic chamberを用いて軸索を単離し、虚血負荷後各エクソソームを投与し、軸索進展効果を検討した。 動物実験において、3-day-exo 投与群と28-day-exo投与群では有意に神経徴候と運動機能が改善した。また、初代神経細胞培養では各エクソソーム投与群で有意に軸索進展効果が見られ、さらに3-day-exo 投与群と28-day-exo投与群においてphosphorylated neurofilament heavy protein (pNFH)、non-phosphorylated neurofilament heavy protein(npNFH)のタンパク量の有意な増加を認めた。これらの結果より、脳梗塞後の血清中エクソソームには軸索進展効果、神経徴候や運動機能改善効果があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各モデルラットの血清中エクソソームの個数、タンパク量を検討したところ、エクソソームの個数は3-day-exo群で有意に減少し、28-day-exo群で有意に増加し、エクソソームのタンパク量は28-day-exo群で有意に増加した。初代培養神経細胞に各エクソソームを投与したところ、pNFH、npNFHは3-day-exo群と28-day-exo群で虚血負荷群に比べ有意に増加した。Microfluidic chamberを用いて軸索を単離し、軸索進展効果を検討したところ、各エクソソーム投与群において、虚血負荷群に比べ有意に軸索進展効果が得られた。動物実験ではラット尾静脈より全血血清から得られたすべてのエクソソームを脳梗塞7日後に投与し、脳梗塞28日後における神経徴候と運動機能を検討した。神経徴候は脳梗塞28日後の慢性期において28-day-exo投与群でVehicle群(脳梗塞後未治療群)、Sham-exo投与群に比べ有意に改善を認めた。また、運動機能においては3-day-exo投与群、28-day-exo投与群でVehice群に比べ有意に改善を認めた。一方、脳梗塞周囲のperi-infarct areaではpNFH、npNFH陽性細胞は3-day-exo群と28-day-exo群でSham-exo群、Vehicle群に比べて有意に増加した。興味深いことにGFAP陽性アストロサイトは各エクソソーム投与群でVehicle群に比べ有意に減少していた。以上より、脳梗塞後血清中に含有するエクソソームには軸索再生効果や機能予後改善効果に加え、peri-infarct areaにおいて軸索再生の障壁となるアストロサイトを減少させる効果があることが示唆された。2020年度は血清エクソソームが脳梗塞慢性期において神経徴候と運動機能を改善すること、軸索再生効果を有することを明らかにしたという点で、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
投与されたエクソソームにアストロサイトの減少効果があることが明らかになったが、アストロサイト内の環境、つまり細胞障害性に機能するA1アストロサイトと細胞保護的に機能するA2アストロサイトの関連性については明らかではない。細胞培養実験と動物実験において、A1アストロサイトとA2アストロサイトが占める割合を評価する。また今後は、脳梗塞後に血清内で増加したエクソソームの起源を追求することが重要であると考える。また、血清エクソソーム内で増加した軸索再生やアストロサイトの減少、脳内の抗炎症効果に関与する可能性のあるmiRNAの同定を網羅的解析により行う。また、peri-infarct areaでのプロテオーム解析を行い、エクソソーム投与により変化するタンパクを同定し、エクソソームとの関連性を検討する。さらには、FACSにてperi-infarct areaでのアストロサイトを抽出し、エクソソームとの関連性を検討する。以上より、エクソソームの静脈内投与による脳内での直接的な軸索再生効果、アストロサイト減少効果が明らかになると考える。さらには同定されたタンパクまたはmRNAを培養神経細胞や培養アストロサイトにトランスフェクション、またはノックダウンし、予想される結果が得られるか検討する。脳梗塞慢性期をターゲットとした新規治療として問題点となるのは、投与したエクソソームが多臓器にトラップされてしまい、peri-infarct areaで十分な軸索再生効果を発揮できない可能性である。そのため、エクソソームをラベリングし、IVISを用いてトラップ部位を検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
おおむね予定通りに利用することができた。本年度はコロナ禍の影響で、海外より輸入が必要な物品の欠損や遅延が相次ぎ、その結果107306円の次年度使用額が生じた。
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Research Products
(2 results)