2020 Fiscal Year Research-status Report
変形性膝関節症の早期病変としての半月板位置異常(逸脱)の発生機序の検討
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19K17209
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
青木 孝子 順天堂大学, 整形外科学講座, 非常勤助教 (10740954)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Knee OA / MME / Osteophytes / Synovium / degegneration |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は, 研究項目IIに掲げた「OAIコホート中の早期膝OA群における内側半月板逸脱幅(MME)と骨棘変化の関連性検討のための縦断研究」について取り組んでいる。近年, 変形性膝関節症(膝OA)の早期には, 軟骨変性や摩耗よりも前に半月板逸脱が発生する可能性が示されつつある。そこで, 半月板位置異常(逸脱)の病態解明が重要となっている。今年度は, 半月板逸脱にかかわる以下の項目について研究を進めた。具体的には, ① 半月板逸脱距離と脛骨側骨棘(骨成分, 軟骨成分別)の経年変化の計測, ② 単純X線による膝OA重症度(K/L グレード)の変化の有無やMRIによるWhole Organ Magnetic Resonance Imaging Score法(WORMS)による経年変化とMMEとの関連の調査, および③ MRI画像上の半月板, 骨棘骨成分, 骨棘軟骨成分, 正常軟骨周囲の組織学的変化の経年変化の検討, ④ 半月板周囲に存在する滑膜の組織学的変化の解析である。 膝関節では,滑膜に存在する滑膜細胞は, 様々な内因性および外因性因子の影響を受け軟骨細胞へと分化しさらに血管の侵入により, 軟骨はさらに骨へと置換される。これが膝OAの重要な病態の一つである骨棘の形成過機序である。我々は, 脛骨の骨棘形成が半月板位置異常と密接に関連することを明らかにしてきた。また, 末期膝OAで人工関節置換術を受けた患者さんの変性半月板の組織像から半月板周囲に存在する滑膜細胞と半月板変性の関係を検討した。 これらの複合的アプローチから, 半月板位置異常(逸脱)の機序について検証を進めている。①, ②, ③の進捗状況は, 予定の約50%程度であり, ④については予定通り10名全員の半月板組織像を作成し術前MRIを参照して観察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
概要で挙げた① MMEと脛骨骨棘の経年変化の計測と, ② WORMS評価が継続中である。BLから72Mまでの期間にK/L グレードに変化を認めなかったのは全体の87.6%(144名)であり, K/L グレード1へと進展したのは8.5%(29名) , K/L グレード2以上への進展したのは3.8%(13名)であった。現時点で①の計測が終了した186名(K/L グレードに変化があった42名全員が含まれている)のデータを見ると, MME(0~5.4 mm)と骨棘の(0~3.9 mm)変化は, K/L グレードの進行との相関は認められていない。MMEと骨棘幅の一致性については, BLにて65.1%, 72Mにて65.6%であった。MMEが骨棘幅よりも大きい対象者は, BLにて 28%, 72Mにて 29.6%であり, MMEが骨棘幅よりも小さい対象者は, BLにて 7%, 72Mにて 4.8%であった。また, WORMS評価ではBLから72Mの間で大部分の対象者では骨棘スコア(骨成分のみ)に変化は認められず半月板断裂の大部分は水平断裂であった。 末期OAで人工関節置換術を受けた対象者の変性半月板の組織像から, 半月板辺縁のミクロな傷に入りこんだ滑膜組織は傷を修復するかのように増殖して半月板周囲で肥厚し, 脛骨上では正常軟骨に癒着することで内軟骨性骨化を起こして骨棘軟骨成分へと変化する可能性が示唆される。軟骨分化の過程で半月板と滑膜組織は接しているため半月板がけん引されてMMEを起こすのではないかと推測できる。MRI画像上では脛骨側のみに限らず内側側副靭帯側や大腿骨側でも同様の像が認められる症例もあり, 特に靭帯側や大腿骨側では滑膜炎~石灰化が多く認められることはこの推測を後押しすると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は研究項目IIに掲げた「OAIコホート中の早期膝OA群におけるMME変化と骨棘変化の関連性検討のための縦断研究」におけるエビデンス構築を目指す。早期膝OAにおける病態においてブラックボックスとなっているMMEと骨棘の関連性について, 骨棘の軟骨成分に注目することで早期膝OAにおける骨棘の役割を明らかにする。「骨棘幅拡大によるMME進行」を明らかにすることで, 「早期膝OA」の病態を少しでも解明し, 新たな診断と治療に通じる重要なエビデンスの構築を目指す。当初より, 膝OAの進行過程として, 骨棘が形成されることで冠状靭帯がけん引されてMMEを起こし, 半月板に覆われていた関節軟骨には通常の力学的負荷であっても半月板による緩衝作用が減少/消失することにより過度の負荷となり摩耗のリスクが増す, という仮説を立てている。特に, 骨棘骨骨成分が1mm未満はBLで75%, 72Mで66%であり, 72か月間の骨棘骨成分に経年変化が乏しいことから, 新たに見えてきた仮説も考慮しながら検討を進める。WORMS評価からOA初期の病態が軟骨摩耗や変性ではなく, 骨棘の軟骨成分の変化とともにMMEの重要性を縦断研究により検証していく。まずはMMEと骨棘の計測, WORMS評価を完了させることが第一である。その後MMEと骨棘の一致性が経年変化によってどう変化するかを調べる。特にMRI画像上の骨棘軟骨成分の変化については最重要項目として着目し, よく観察する必要がある。今回のデータは正常膝で72か月間変化のない対象者が多く, 検証するには少ないため, 対象者を拡大してOAIデータの中で比較的短期間でKL変化(骨棘, MME拡大)がみられるデータも追加し, 検討する必要があるかもしれない。
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Causes of Carryover |
次年度は最終年度にあたり、総括として成果を国際学会および論文化していく予定である。そのための学会参加費、英文校閲費が必要である。
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