2020 Fiscal Year Research-status Report
不均一放射線場における放射線影響推定へ向けたモデル開発
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19K17215
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
松谷 悠佑 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 博士研究員 (20826929)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 不均一照射 / DNA損傷 / 細胞死 / 細胞間シグナル効果 / 活性酸素種 / 酸素効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、不均一被ばく条件下における細胞応答メカニズムの解明を目指して、培養細胞を用いた実験研究および数理モデルの開発を進めている。令和2年度は、様々な酸素濃度に対して、放射線照射により変化する活性酸素種の濃度に着目し、不均一被ばく下の照射野内細胞(以下、照射細胞)および照射野外細胞(以下、非照射細胞)に誘導される細胞間シグナル効果の細胞応答メカニズムを細胞実験により研究した。その成果の一部は、放射線分野で国際的に著名なジャーナルで報告した。 当該年度において実施した実験研究では、ヒト前立腺がん細胞株DU145とヒト肺非小細胞がん細胞株H1299を使用し、それら細胞を含む培養フラスコの50%もしくは100%の面積にX線を照射した。一方で、低酸素培養キットであるn-BIONIXを使用して、照射時の細胞内酸素濃度を20%(空気中)と0%(無酸素)と変化させ、酸素濃度依存的に変化する活性酸素種濃度とDNA損傷発生数の関係を測定した。この測定により、酸素濃度を変化させた場合に生じる照射細胞と非照射細胞の双方向のシグナル効果を調べた。その主な成果として次の2点が明らかとなった。(1) 細胞間シグナル効果により非照射細胞に生じるDNA損傷および細胞死の発生は酸素濃度に依存するが、その影響は照射細胞と比較して小さい。(2) 高線量照射の場合、細胞間シグナル効果により非照射細胞へ生じる細胞死の最大レベルは酸素濃度とほぼ無関係である。これらの結果から、低酸素条件下における細胞間シグナリングは非照射細胞の細胞死を増加させるが、その影響は照射細胞に比較して小さいことが明らかとなり、不均一被ばく後の放射線感受性の新たな知見を得た。 以上の成果より、不均一放射線場における発生する細胞間シグナル効果の細胞応答メカニズムの解明へ向けて研究がより一層進展した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成31年度(令和元年度)までは、細胞実験ならびに細胞応答を予測する理論モデル(Integrated Microdosimetric-Kinetic (IMK)モデル)の開発を実施し、細胞間シグナル効果により非照射細胞へ生じる細胞死および照射細胞へ誘発される抵抗性(防御効果)の誘導メカニズムの一部を解明した。その成果に基づき、令和2年度は、不均一被ばく下で誘導される細胞間シグナル効果のメカニズム解明を目指して、放射線照射により増加する活性酸素種の濃度とその酸素濃度依存性を測定した。また、令和2年度に測定した実験データを使用して、それらを再現する理論モデルの開発も実施し、そのモデル開発の過程で得られた新規性のある科学知見については国際的に著名なジャーナルにて発表した。以上のとおり、当該年度に計画していた研究内容に加え、令和3年度に計画する放射線治療シミュレーションに必要な理論モデルの開発を概ね完了したため、当該年度に計画した研究内容を順調に進めることに成功したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和3年度は、先述の進捗状況を踏まえて、下記2点を実施することを計画している。 (1) 令和2年度までに開発した細胞応答を予測するIMKモデルの検証を継続する。具体的には、不均一放射線照射後に修復できずに細胞内に残るDNA損傷数を細胞実験により追加測定し、IMKモデルの予測結果と比較する。これにより、開発したモデルの一層の検証ならびに、DNA損傷を起点として細胞応答を予測する理論モデルの高精度化へつなげる。 (2) 本研究で開発したIMKモデルを応用して、不均一な放射線場を用いた放射線治療である強度変調放射線治療(VMATやIMRT)の放射線治療シミュレーションを実施する。具体的には、本研究で開発したIMKモデルを活用し、正常細胞(AGO1522)とがん細胞(DU145,H1299)それぞれの放射線感受性(細胞死やDNA損傷)の理論予測を行い、不均一放射線照射が治療効果(腫瘍制御)に与えるインパクトを推定する。 以上のとおり、理論モデルの更なる開発と放射線治療シミュレーションを実施し、当初予定していた「不均一放射線場における細胞応答を予測するモデルの開発」を完了させる予定である。
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Causes of Carryover |
令和元年度3月に発生したCOVID-19パンデミックの影響により、令和2年度も細胞実験や成果発表(学術大会参加)に使用する旅費の一部が未執行のため、次年度使用額が生じている。この未執行額分については、令和3年度において大量の細胞実験を効率よく進めるための実験消耗品に計上し、研究を進める予定である。
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Research Products
(3 results)