2020 Fiscal Year Research-status Report
MR所見の分子生物学的なアプローチによる卵巣粘液性腫瘍の悪性度診断
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19K17229
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
大彌 歩 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (60837079)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 卵巣原発粘液性腫瘍 / MRI / CEA / CA19-9 / MUC6 / αGIcNAc / MUC5AC / MUC2 |
Outline of Annual Research Achievements |
卵巣原発粘液性腫瘍の術前の悪性度の診断をよりよくするために、MRI所見、腫瘍マーカーの所見の組み合わせによる診断能を機械学習を用いて調査した。単変量解析にて、腫瘍の最大径、ハニカム構造、ステンドグラスパターン、壁在結節、CEA、CA19-9、嚢胞内容の「T1強調像高信号/T2強調像高信号」、「T1強調像高信号/T2強調像低信号」で統計学的有意差が認められた。これら8つの所見において、人工知能を用いた分類木分析で全ての所見の組み合わせを解析した結果、3つの所見からなる2通りの分類木での診断が病理診断との一致率が最も高くなった。一つは、最初のノードを「T1強調像高信号/T2強調像低信号」で分割し、陰性であったものをCEAで、陽性であったものをCA19-9で分割する分類木であった。他方は、最初のノードを「T1強調像高信号/T2強調像低信号」で分割し、陰性であったものをCEAで、陽性であったものを壁在結節の有無で分割する分類木であった。この結果を論文にまとめ、2020年12月にAbdominal Radiology誌に採用された(Ohya A, et al. Abdom Radiol. 2021 Jan 2. doi: 10.1007/s00261-020-02918-4.)。 一方、上記と平行して進めてきた卵巣原発粘液性腫瘍でのαGlcNAcやMUC蛋白発現と悪性度の関連については、悪性度の進行に関連して、αGlcNAc、MUC6の発現が有意に低下することが判明した。特にαGlcNAcの発現低下が著明であった。αGlcNAcが悪性度と関連し、癌化を抑制する働きを持っている可能性が示唆された。MUC2およびMUC5ACの発現は悪性度との関連は認められなかった。これらの結果をまとめ、論文を作成し、令和3年度投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の第1段階であるMRI所見と腫瘍マーカーの所見の組み合わせによる卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度診断については、当初いくつかの学会で発表を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行により、発表を予定していた学会の中止などがあり、発表することができなかった。しかし、論文としてAbdominal Radiology誌に採用が決定し、2020年度中に第1段階の成果を得ることができた。 本研究の第2段階である卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度とαGlcNAcやMUC蛋白発現の関係については、結果を第110回日本病理学会総会にて発表することができた。論文も作成し、現在投稿中である。予定としては2020年度中での採用を目指していたので、スケジュールはやや遅れている。しかし、研究全体としては、概ね順調に推移している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第1段階の研究において、嚢胞内容のMRIでの信号パターンが卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度と関連があることが判明した。一方、第2段階の研究において、卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度とαGlcNAc、MUC6は関連があることが判明した。第2段階で調査したムチンはいずれも分泌型であり、嚢胞内容に含まれるムチンと考えられる。MRIにおける嚢胞内容の信号は、貯留する液体の蛋白濃度やそれによる粘稠度、出血などの影響を反映していると考えられ、ムチンで全て説明できるわけではないが、液体中のムチンがMRIの信号に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できない。また、胃型の形質を発現する腫瘍では、αGlcNAcという糖鎖発現の有無がcarcinogenesisと関連している可能性が複数の論文で報告されていることから、糖鎖やMUC蛋白の発現が悪性度と関連がある形態的所見と相関関係があるかもしれない。そこで、令和3年度は、本研究の第3段階として、卵巣原発粘液性腫瘍において、MRI所見とαGlcNAcやMUC蛋白発現との間に関連があるか調査する。形態的な変化や嚢胞内容の信号パターンとαGlcNAcやMUC蛋白発現に関連が判明すれば、術前の画像所見から悪性度と関連する糖鎖発現、ムチン発現の有無が推測できる可能性があり、従来の術前診断を上回る診断が可能性となる可能性を秘めていると考える。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、発表を予定していた学会が中止となったことや実験ができない期間があり、予定していた実験に必要な経費が減少したこと、また論文がすぐに採用され、校正に係る費用が浮いたことから、残額が生じることとなった。令和3年度は、令和2年度の残額も含め、第3段階の研究における解析に必要な機材、ソフト購入に使用する予定。また、学会発表の際に生じる参加費や旅費に使用する可能性がある。論文を作成し、投稿する際の校正費用やオープンアクセスに必要な費用などに用いる予定である。
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Research Products
(2 results)