2019 Fiscal Year Research-status Report
STAT1機能獲得型変異が自己免疫性の内分泌障害を引き起こす分子病態の解明
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19K17301
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
香川 礼子 広島大学, 病院(医), 医科診療医 (40806634)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | STAT1GOF変異 / CMCD |
Outline of Annual Research Achievements |
STAT1の機能獲得型(GOF)変異は、慢性の皮膚粘膜カンジダ感染(CMC)を主要症状とする原発性免疫不全症を引き起こすが、一部のSTAT1-GOF変異では、多腺性内分泌不全症などの複合型免疫不全症とされる重症例が存在する。本研究において、重症化する臨床像を呈するT385M変異を有する日本人例(2家系2症例)、好発変異であるR274変異を持つ3家系3症例を同定した。同定されたT385M変異の臨床像は、1例は臨床的に免疫症状が強くIPEX-like症候群と診断されており、一方で別症例は、比較的軽症の臨床経過を示した。そのため、同一変異においても重症度が異なることが示された。また、健常者、患者3例(T385M変異:2例, R274Q変異:1例)の末梢血から、磁気細胞分離によりCD3+CD4+ヘルパーT細胞、CD3+CD8+キラーT細胞を単離した。単離した細胞をIFN-γで刺激し(0, 10, 100 IU/ml, 8 hr)、刺激後の網羅的な遺伝子発現プロファイルをRNA-Seqで解析した。IFN刺激はJAK-STAT経路を介し、ISG(Interferon-stimulated genes)と呼ばれる一連の遺伝子群の発現を活性化するが、重症のT385M変異症例では、IFNγ刺激により過剰なISGの発現増強を認めた。他方で、軽症のT385M変異症例では、ISGの発現増強を認めず、同じ変異においても遺伝子発現プロファイルに相違があることが示された。また、R274Q変異ではIFN-γの刺激によるISG群の増強は認めず、比較的重症度の低い臨床像を示したT385M症例と類似した遺伝子発現プロファイルを示した。これらの結果から、ISGの発現増強と重症化には一定の関連性が存在すると考えた。一方、特定の変異とISGの発現との間に明確な関連を見いだすことはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重症化する変異であるT385M変異を2症例同定するとともに、その臨床像において同一変異でも重症度が異なることを明らかとすることができた。また、同患者のCD3+CD4+ヘルパーT細胞、CD3+CD8+キラーT細胞をIFN-γで刺激することによって発現する、遺伝子プロファイルを網羅的に解析し、T385M変異の中でも特に重症の臨床像を示した患者の細胞において、ISG(Interferon-stimulated genes)と呼ばれる一連の遺伝子群の発現が過剰となることが示された。一方で、比較的軽症のT385M変異症例においては、過剰なISG遺伝子群の発現は認めなかった。また、R274Q変異はCMCDの好発変異であるが、比較的軽症の臨床像をたどったT384M変異のIFN-γ刺激において発言するISG遺伝子群とR274Q変異の発現遺伝子プロファイルは類似していたことから、ISG遺伝子群の過剰発現が重症化と関連していることが推測できた。当初の重症化のメカニズムとなる分子があるとの仮説を立証する因子と考えられた。また、今後の研究の推進方法として考案していた、クロマチン免疫シーケンス解析(ChIP-Seq解析)の候補対象となるため、現時点での研究の進歩状況は概ね順調であると考えている。一方で特定の変異とISGの発現との間に明確な関連を見いだすことはできず、今後、同変異症例があれば検討が必要と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
T385M変異はSTAT1がDNAに結合するモチーフに近接して存在しているため、変異により本来の標的配列以外のDNA配列にSTAT1が結合する可能性が考えられる。前述のRNA-Seq解析でIFN-γ刺激により遺伝子発現プロファイルの増強が認められた細胞群に対し、クロマチン免疫シーケンス解析(ChIP-Seq解析)を行う。健常者T385M変異、R274Q変異を持つ患者を比較検討することで、T385M変異に特有と考えられる標的DNA配列を同定する。並行してゲルシフトアッセイを行い、これらの配列へのSTAT1の結合状態を確認する。 近年、本症患者における自己免疫疾患に対するJAK阻害薬の有効性が示唆されている。T385M変異症例においても、自己免疫疾患に対してJAK阻害薬が有効であったとする論文が散見される。STAT1-GOF変異は、自己の過剰なリン酸化を介してIFN-γシグナル伝達を増強することが知られている。一方で、本症患者に対してJAK阻害剤を投与するとIFN-γ産生が低下することが示されている。このことからJAK阻害薬は、本症患者に対する新たな治療法として期待されている。本研究で、STAT1-GOF変異を有する患者にJAK阻害薬が有用性を示す分子基盤を検討する。T385M患者由来の細胞をJAK阻害剤の存在下でIFN-γで刺激し、RNA-Seqによる網羅的遺伝子発現プロファイルの解析を行う。特に、JAK阻害剤の有無で変化する遺伝子群に着目して解析を行う。並行して健常者、R274Q変異症例の末梢血単核球でも、IFN-γ刺激による遺伝子発現プロファイルをJAK阻害剤の有無の条件下で調査し、比較検討する。これら一連の検討で、T385M変異症例における重篤な感染症、自己免疫疾患の発症に関連する遺伝子群を絞り込む。
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Causes of Carryover |
本年度施行する予定であった、RNA-Seq解析でIFN-γ刺激により遺伝子発現プロファイルの増強が認められた細胞群に対しクロマチン免疫シーケンス解析(ChIP-Seq解析)を次年度に施行する予定としている。同時にゲルシフトアッセイを行い、これらの配列へのSTAT1の結合状態を確認することを予定している。
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