2019 Fiscal Year Research-status Report
エピゲノム薬と環境因子の相互作用による肝癌治療の基礎的検討と臨床応用
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19K17403
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
長岡 克弥 熊本大学, 病院, 特任助教 (00759524)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エピゲノム薬 / HDAC阻害薬 / SIRT阻害薬 / 転写因子 / 脂質代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1)ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)などのエピゲノム修飾酵素阻害薬、(2)肝発癌に関連する環境誘導因子を同定・準備し、肝癌細胞の合成致死性あるいは治療抵抗性が生じる(1)(2)の組み合わせを網羅的に探索し、細胞環境に応答する転写因子・核内受容体を介した新しい肝発癌・進展機構の同定ならびに臨床応用を目指している。上記(2)に関連した研究として、c-Raf,b-Raf のセリン・スレオニンキナーゼ活性と c-Kit,VEGFRなどのチロシンキナーゼ活性を阻害するマルチキナーゼ阻害薬であるソラフェニブ(SFN)を用いて肝癌細胞株HepG2細胞を長期培養することで、SFN耐性肝癌細胞株を樹立した。 今年度の研究においてこの細胞の細胞内シグナル経路の変化を調べた結果、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/プロテインキナーゼB経路の代償性活性化が生じていることが分かった。さらにSFN耐性肝癌細胞株はSFN再投与に反応して脂質代謝に関わる転写因子の発現が上昇していることを見出した。加えて遺伝子マイクロアレイ解析にて、上記転写因子の下流にある多くの遺伝子の発現が変動していることを確認した。また、上記(1)に関連して、肝癌細胞親株とSFN耐性株に、43種類のエピゲノム修飾阻害薬と8種類のシグナル標的阻害薬を用いて薬剤スクリーニングを行った。その結果、SFN耐性肝癌細胞株において、親株より増殖抑制効果を示す4種類の候補薬剤を同定した。内訳としては、エピゲノム修飾阻害薬に関しては3種類のHDAC阻害薬と、1種類のSIRT阻害薬、ならびに1種類のシグナル標的阻害薬(生存シグナル阻害薬)であった。 次のステップとして、同定した脂質代謝関連転写因子と、薬剤スクリーニングで同定したエピゲノム薬との関連を分子生物学的手法により詰めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SFN耐性肝癌細胞株において治療抵抗性の克服につながることが期待される4種類の候補薬剤をすでに同定した。一方で、SFN耐性肝癌細胞株では脂質代謝に関わる転写因子の発現が上昇し、それに伴い関連遺伝子群が変動していることを見出した。引き続き薬剤スクリーニングを継続し、候補薬剤を増やしていく予定である。 さらに、すでに同定した薬剤と転写因子とのゲノム上の相互作用を詰めていきつつ、動物モデル、臨床検体を用いることで、本研究での成果が臨床に還元可能なレベルとなることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、転写因子を活性化、あるいは核内受容体リガンドとなり得る環境誘導因子の化合物ライブラリー、ならびにヒストン修飾酵素阻害薬のライブラリーを用いて、薬剤スクリーニングを継続し、転写因子とエピゲノム薬の相互作用を調べる。 具体的には、同定された候補エピゲノム薬が阻害するHDAC酵素と、同定した転写因子が発現活性化する標的遺伝子の制御部位(エンハンサー/プロモーター領域)上で、それぞれが相互作用し得るかを、Webデータベース上のChIPシークエンスデータとDNA結合モチーフを照合することで、さらに候補を絞り込む。さらに同定された転写因子/核内受容体に対する特異抗体を用いてChIP -qPCRを行い、遺伝子制御部位への転写因子/核内受容体の直接的な結合を確認する。加えて、肝癌細胞において、候補エピゲノム薬が、その下流の標的遺伝子の発現を変化させ、細胞増殖能や転移・浸潤能に対する抗腫瘍効果を発揮し得るかを明らかにすることを試みる。 最終的には、動物モデル、臨床検体を用いることで臨床に還元可能なレベルでの研究体系を構築し、肝癌の治療成績の向上につながる研究基盤に発展させることを試みる。
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Causes of Carryover |
当初用いる予定であった薬剤ライブラリーキットが輸入規制対象となり入手困難となったため、予定していた実験が遂行困難となった。今年度は実験計画を一部変更し、肝癌治療抵抗性に関連する環境誘導因子を薬剤ライブラリーから絞りこむのではなく、治療抵抗性を獲得する際の代謝動態の変化から環境誘導因子を絞りこむアプローチに変えることで、候補転写因子を同定した。さらに当初の予定とは別のエピゲノム薬ライブラリーを入手し、研究目的に沿う候補エピゲノム薬の絞り込みにも成功した。一方で上記実験計画変更に伴い、今年度購入した薬剤ライブラリーの種類が減少したため、費用の一部が計画通りに使用されなかった。薬剤ライブラリーの解析に関しては、当初の予定とは別のライブラリーを購入することで次年度も継続し、引き続き解析を行う予定である。 細胞の培養実験、細胞増殖アッセイにおいては実験の効率化などにより当初計画していたよりも物品費を安く抑えることができたため未使用額が発生したが、引き続き、次年度以降も物品購入に使用する。
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Research Products
(10 results)