2019 Fiscal Year Research-status Report
iPS細胞を用いたゲノムとHBV integrationが関わる肝発癌機構の解明
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19K17453
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
北畑 富貴子 (河合) 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 特任助教 (00755580)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 肝細胞癌 / B型肝炎ウイルス / ヒトiPS細胞 / 肝細胞 / 遺伝子変異 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、次世代シークエンス技術とヒトiPS細胞培養系を利用して、HBV integrationが関わる肝発癌・進展機構の解明と、ヒトiPS細胞を用いた新たな応用研究分野を開発することを目的とした研究を行い、本年度の実績として下記を得た。 肝細胞癌の患者検体143例(HBs抗原陽性慢性肝炎/HBs抗原陽性ALT持続正常/HBV既往感染=39/4/51例と非B非C49例)の癌部と背景肝のDNAを用いてdeep sequenceを行い、15遺伝子215か所の遺伝子変異を同定した。HBs抗原陽性慢性肝炎群とHBs抗原陽性ALT持続正常群は両群ともTP53変異が多くTERT promoter変異が少なかった。一方HBV既往感染はTERT promoter変異が多く非B非C群に近い遺伝子変異プロファイルであった。HBV integrationはHBs抗原陽性癌部の43例中40例126か所で検出され、ヒトゲノム側ではTERT 16例、KMT2B 2例であった。そのうちHBs抗原陽性ALT持続正常群では4例中3例でHBV integrationを認めTERT領域も含んでいた。一方、HBV既往感染癌部は51例中7例21か所でTERTを含む領域にHBV integrationを認めた。 前項の検討で得られたHBx遺伝子とTERT locus breakpointsを再現してgenotype C HBxコンセンサス配列を用いたtargeting vectorを作成した。これをCrispr/Cas9系を利用して、健常者由来ヒトiPS細胞株のTERT promoter領域へHBx配列の挿入変異を導入した。同様に、KMT2B locus breakpointsの再現として、健常者由来iPS細胞株よりKMT2B欠損株を作成し、肝幹・前駆細胞へ分化誘導を行った。これらに関して現在解析を進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画は、(1) 核酸アナログ内服によるHBV複製制御下における肝細胞癌の遺伝子変異およびHBV integrationの解析、(2) これらHBV integrationと癌関連遺伝子変異をゲノム編集により導入したiPS細胞の樹立と、これを用いた癌形質獲得について細胞生物学的解析、(3)HBV integration過程を再現するin vitro HBV感染培養系を構築する、の3段階で進行させる計画であるが、現時点まで順調に進捗していると考えられる。 (1)肝細胞癌のウイルス制御下における遺伝子変異の解析に関しては当初の計画通り進めることができた。すなわち、B型慢性肝炎からのHCC発症においてHBs抗原陽性慢性肝炎とHBs抗原陽性ALT持続正常群では遺伝子変異、HBV integrationともに類似のプロファイルであり同様の発癌機構が考えられるなど、新規の知見を得た。またHBV既往感染におけるHBV integrationの頻度がHBs抗原陽性例と異なるが、共通するHBV integration領域も新たに明らかとなり、加えて、本知見を元に、次項の研究項目にも反映して進捗させることが期待できる。現在の解析を進めることで、HBV持続感染、HBV既往感染の背景肝における発癌機構の一端を解明し得ると考えられる。 (2)HBV integrationをゲノム編集により導入したiPS細胞の樹立に関しては、TERTとHBx配列を入れた健常者由来ヒトiPS細胞株を樹立した。目的とするヒトiPS細胞株のクローン選択を行い、順次得られた細胞株を用いて肝細胞系譜へ誘導し形質の解析を進める予定である。今後さらに(3)HBV integration過程を再現するin vitro HBV感染培養系の構築に向けて計画進展の準備を進めている。以上のように、研究計画は順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
前項に記した各段階で研究を継続する予定である。 (1)について今後、HBV持続感染とHBV既感染の背景肝における遺伝子変異、HBV integrationの解析および詳細な臨床背景因子との関連を検討することにより更に広範なウイルス制御状態での発癌過程での責任遺伝子を同定し、臨床病態学的因子との関連解明を試みる。 (2)についても継続して研究を進める。TERTとHBx配列を入れた健常者由来ヒトiPS細胞株樹立と同様に、健常者由来ヒトiPS細胞株を用いて、これにCrispr/Cas9系を利用してKMT2B領域に相同組換えせしめ、前記遺伝子カセットを有する新たなHBVゲノム挿入ヒトiPS細胞株の樹立を進めている。次にiPS細胞としての品質の検証を行う。品質に問題がないことを確認した後に、得られた細胞株を肝細胞系譜に分化誘導せしめ、コントロール細胞との形質を比較する予定である。 (3)HBV integration過程を再現するヒトiPS細胞由来HBV感染培養系の構築と肝発癌・進展機構の詳細解明についても着手する予定である。HBV integrationは一過性感染を含む感染早期でも生じる可能性があり、感染初期を含むHBV挿入の詳細とその後の形質変化を解析する。PiggyBac transposonを用いてNTCP強制発現ヒトiPS細胞にgenotype BあるいはCのHBVゲノム(特にHBxおよびHBV core promoterの配列)を組み込み、ランダムにHBV integrationを有するヒトiPS細胞を樹立する。樹立されたヒトiPS細胞を用いて、肝細胞系譜に誘導し、増殖性の高いクローンを選択し、これらのクローンに関してNGSによりゲノム上でのintegration部位を同定し、増殖性亢進あるいは薬剤耐性獲得の分子機構を解析する。これらの検討を計画通り進める予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: 試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため、廉価な物品を選択して購入したため。 使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を発展させて行うため、当初の計画よりも試薬を増量して購入する予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Journal Article] Vasoactive Intestinal Peptide Derived From Liver Mesenchymal Cells Mediates Tight Junction Assembly in Mouse Intrahepatic Bile Ducts2020
Author(s)
Sato A, Kakinuma S, Miyoshi M, Kamiya A, Tsunoda T, Kaneko S, Tsuchiya J, Shimizu T, Takeichi T, Nitta S, Kawai-Kitahata F, Murakawa M, Itsui Y, Nakagawa M, Azuma S, Koshikawa N, Seiki M, Nakauchi H, Asahina Y, Watanabe M.
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Journal Title
Hepatology Communications
Volume: 4
Pages: 235~254
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Comprehensive genetic analysis of cholangiolocellular carcinoma with a coexistent hepatocellular carcinoma‐like area and metachronous hepatocellular carcinoma2019
Author(s)
Kawai-Kitahata F, Asahina Y, Kaneko S, Tsuchiya J, Sato A, Miyoshi M, Tsunoda T, Inoue-Shinomiya E, Murakawa M, Nitta S, Itsui Y, Nakagawa M, Azuma S, Kakinuma S, Tanabe M, Sugawara E, Takemoto A, Ojima H, Sakamoto M, Muraoka M, Takano S, Maekawa S, Enomoto E, Watanabe M.
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Journal Title
Hepatology Research
Volume: 49
Pages: 1466~1474
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Loss of fibrocystin promotes interleukin-8-dependent proliferation and CTGF production of biliary epithelium2019
Author(s)
Tsunoda T, *Kakinuma S, Miyoshi M, Kamiya A, Kaneko S, Sato A, Tsuchiya J, Nitta S, Kawai-Kitahata F, Murakawa M, Itsui Y, Nakagawa M, Azuma S, Sogo T, Komatsu H, Mukouchi R, Inui A, Fujisawa T, Nakauchi H, Asahina Y, Watanabe M.
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Journal Title
Journal of Hepatology
Volume: 71
Pages: 143~152
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Impact of novel NS5A resistance-associated substitutions of hepatitis C virus detected in treatment-experienced patients2019
Author(s)
Nitta S, Asahina Y, Kato T, Tsuchiya J, Inoue-Shinomiya E, Sato A, Tsunoda T, Miyoshi M, Kawai-Kitahata F, Murakawa M, Itsui Y, Nakagawa M, Azuma S, Kakinuma S, Hikita H, Takehara T, Watanabe M.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 9
Pages: 5722
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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