2019 Fiscal Year Research-status Report
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の発症・進展の分子メカニズムの解明
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19K17598
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷口 悠 神戸大学, 医学研究科, 特命助教 (80823046)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 慢性血栓塞栓性肺高血圧症 / 血栓内膜摘除術 / Shear stress / 拍動刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は器質化した血栓により肺動脈が狭窄・閉塞し、肺動脈圧が上昇して心不全を発症する疾患である。近年、CTEPHの標準治療である血栓内膜摘除術(PEA)に加え、バルーン肺動脈形成術および血管拡張薬の登場により、CTEPH症例のQOLおよび生命予後は劇的に改善した。しかしながらこれらの治療を組み合わせても病態の増悪を抑制できない症例が存在し、新たな分子作用機序を持つ新薬の開発が望まれている。最近、CTEPHの病態は単純な血栓・塞栓症ではなく、血栓部位に存在する細胞群の過剰増殖が病変増悪に積極的に関わっている事が明らかとなってきたが、これら細胞群の性状や過剰増殖の分子メカニズムは未だ解明されていない。そこで本研究では、PEAで得られた患者検体を用いて、CTEPH発症・増悪の未知の分子メカニズムを明らかとし、新しい治療法の開発に繋げることを目的とする。 具体的には、PEAを施行したCTEPH患者の手術サンプルから血栓部位に存在する細胞群(CTEPH細胞)を単離し、その性状を解析すると共に、これら細胞がShear stressや拍動の刺激に対してどのような挙動を示すかを検討する。 当該年度はCTEPH細胞の基本的な解析を実施した。CTEPH症例から摘出された器質化血栓から酵素的手法を用いて細胞を単離し、CTEPH細胞を8系統樹立した。これら細胞を用いて、様々なマーカー遺伝子(血管平滑筋細胞・血管内皮細胞・間葉系細胞、血球系細胞など)の発現レベルを検討し、細胞の由来や性状を明らかにすることを試みた。その結果、単離した全てのCTEPH細胞は血管平滑筋細胞のマーカーが陽性であり、一部は間葉系のマーカーが陽性であることが明らかとなった。以上よりCTEPHは平滑筋細胞の性格を保ちながらも一部はヘテロな集団である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに8検体からCTEPH細胞の単離培養を試み、8系統の細胞株を樹立できた。今後はこれらの細胞学的特性を解析することで研究課題の目的を達成することが期待されるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は申請者が樹立したCTEPH細胞を用いて、CTEPH細胞のShear stressに対する反応の解析ならびにCTEPH細胞の拍動刺激に対する反応の解析に取り組む。 CTEPH細胞のShear stressに対する反応の解析:応募者らが自作したShear stressを随意に可変できる細胞培養システムを用いて0、1、10 dyne/cm2の力を24時間加えた後にサンプルを回収する。形態的変化を顕微鏡下で観察し、細胞増殖をMTSアッセイおよびBrdUアッセイにより解析する。アポトーシスは低酸素および酸化ストレス負荷により誘導し、Shear stressの影響を解析する。更にこれら細胞からRNAおよびタンパクを回収し、平滑筋細胞の増殖型・収縮型マーカー(SM1、SM2、SMemb、VEGF、PDGF-β等)、血栓形成因子(PAL-1、mTOR)、増殖・アポトーシスシグナル経路(ERK、Akt等),アポトーシス関連分子(Caspase、Survivin、Bcl-xL等)などの発現変化をReal time PCRとウエスタンブロッティング法にて定量し、比較検討を行う。 CTEPH細胞の拍動刺激に対する反応の解析:細胞進展負荷培養装置(ストレックス社STB140)を用いて、CTEPH細胞に0、10、20%の伸展刺激をそれぞれ24時間加えた後にサンプルを回収する。このサンプルに対して、形態的変化、細胞増殖、アポトーシスなど上記同様の検討を行う。 これらの結果でCTEPH細胞の細胞学的特質を明らかにし、器質化血栓の増殖抑制や退縮に有効な情報伝達経路を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
当該年度は検体採取とCTEPH細胞の培養および一般的な分子生物学的なマーカの検討に必要となるものが主な費用であり、予想よりも少額であった。 次年度はCTEPH細胞のShear stressに対する反応の解析およびCTEPH細胞の拍動刺激に対する反応の解析という2つの研究計画を実施する。これらの計画の実施にあたり、大量の細胞培養に加えて、研究室で所有していない多くのマーカーに対するプライマー、抗体や細胞進展負荷培養装置のチャンバーなどの購入が必要となるため、これらに用する費用として助成金を使用する予定である。
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