2019 Fiscal Year Research-status Report
WNT10A欠損マウスを用いた発毛および男性型脱毛症の機序の解明
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19K17789
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
田崎 貴嗣 産業医科大学, 医学部, 助教 (10800782)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | WNT10A / 男性型脱毛症 |
Outline of Annual Research Achievements |
WNT10Aは、毛髪減少などの症状を有する外胚葉形成異常の原因遺伝子としてだけでなく、男性型脱毛症の原因遺伝子の1つとして注目されているが、その詳細な作用機序はわかっていない。そこで本研究では我々が世界で初めて開発したWNT10Aノックアウト(WNT10A-KO)マウスを用いて実験を行った。 まず我々は20週齢のWNT10A-KOマウスと野生型マウス(WT)の2群の背部を脱毛し毛周期を均一にした。WNT10A-KOマウスで成長期の早期から毛の再生が遅い傾向が見られ、20wの毛髪が電子顕微鏡的に優位に細くなっていた。しかし各周期で単位面積当たりの毛包の数や毛包構造の光学顕微鏡的検討に明らかな差異は見られなかった。また成長期早期(5w)で免疫組織化学的にCK15陽性毛包幹細胞、CK14陽性外毛根鞘細胞、毛包におけるKi-67陽性率にも有意差は見られなかった。一方でWNT10A-KOマウスにおいて真皮層の厚さが有意に薄く、CD34陽性血管内皮細胞の検討で真皮毛細血管の有意な減少が見られた。 近年、ヒトやラットの顆粒膜細胞や卵丘細胞を用いた検討でbeta-cateninがCYP19A1の転写因子であることが指摘されており、beta-cateninの上流には複数のwntシリーズの存在が示唆されている。また男性型脱毛症の原因として男性ホルモンの関与が以前から想定されている。そこで我々はELISA kitを用いた検討を行い、WNT10A-KOマウスで17beta-estradiolが有意に減少し、teststeroneの有意な増加が見られた。更に皮膚から抽出した蛋白を用いたwestern blottingで、estradiolからteststeroneの変換酵素であるcyp19a1の発現の有意な減少を認め、wnt10aの発毛作用に男性ホルモンが大きく関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの研究成果は、当初の予定と異なり、wnt10aの主たる作用部位は毛包細胞ではなく真皮の線維芽細胞であることが示唆される結果であった。そのため今後の実験計画を大きく変える必要があり、やや遅れることが考えられるが、「8. 今後の研究の推進方策」で示す通り、既に実験計画の変更の見通しは立っており、十分に遅れを取り戻すことは可能であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験結果から、wnt10aの主たる作用部位は毛包細胞ではなく真皮の線維芽細胞であることが示唆された。そのため、今後はWNT10A-KOマウスおよびWTマウスから採取した真皮線維芽細胞の初代培養を用いた検討を主とする。即ち、① Cell migration assayでそれぞれの線維芽細胞の増殖活性をまず検討する。次に② ELISA kitを用いてメディウムでestradiol、teststeroneの測定を行う。③ またWNTの下流にあると想定されるbeta-catenin、cyp19a1の発現を、RT-PCR、western blottingを用いて検討する。また④ ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いてcyp19a1活性を測定する。 これより、① Wnt10Aが真皮線維芽細胞の増殖能に直接関与し、② Wnt10A-KOによってestradiolの減少、Teststeroneの増加が見られ、③④ その原因としてwnt10aが真皮線維芽細胞の発現するcyp19a1の発現および活性をbeta-cateninを介して調節していることが証明できると考えられる。 これらの検討は、外胚葉形成異常の毛髪症状の改善および男性型脱毛症の治療について大きく貢献できるだけでなく、WNT10A-KOマウスが外胚葉形成異常および男性型脱毛症のよい実験モデルになることを示すことで脱毛症の研究の飛躍、治療法の開発につながると考える。
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