2019 Fiscal Year Research-status Report
包括的アプローチによる血管型エーラス・ダンロス症候群の分子遺伝学的発症機序の解明
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19K17795
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山口 智美 信州大学, 医学部附属病院, 助教(特定雇用) (90802835)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 血管型エーラス・ダンロス症候群 / 遺伝性結合組織疾患 / 次世代シークエンス / 分子遺伝学的発症機序 |
Outline of Annual Research Achievements |
エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome; EDS)は皮膚の過伸展性、関節の過可動性、各種組織の脆弱性を特徴とする遺伝性結合組織疾患である。その中で、血管型EDSは、動脈病変、S状結腸破裂、子宮破裂などの致命的な合併症を生じうる重症病型である。信州大学医学部附属病院遺伝子医療研究センターでは、次世代シークエンス(Next generation sequencing; NGS)を利用した遺伝性結合組織疾患・原因遺伝子パネル解析(NGSパネル解析)を実施してきた。しかし、血管型EDSが疑われた患者のうちの7割弱において病的バリアントは検出されず、コピー数異常を含む構造異常、イントロン深部・転写調節領域・他の遺伝子における病的バリアントの存在が想定された。本研究は、NGSパネル解析陰性例に対する(1)NGSデータを用いたコピー数解析、(2)mRNA解析、(3)ロングリードNGSによる全ゲノム解析を通じて、血管型EDSの分子遺伝学的発症機序の包括的解明を目指している。2019年度はまず、NGSデータを用いたコピー数解析を実施した。パネル解析陰性例280例に対してコピー数解析を行ったところ、6例(2.1%)において、EDS関連遺伝子にコピー数異常を認めた。その詳細は、1例が数エクソンの2コピー減少、1例が数エクソンの1コピー減少、1例が数エクソンの1コピー増加、1例が遺伝子全域の1コピー減少、2例が遺伝子全域の1~2コピー増加であった。また、これらの結果については、MLPA法による検証を行い、コピー数異常を確定した。さらに、当該遺伝子全域にコピー数異常が認められた症例については、ロングリードNGSを用いた構造解析に取り組み始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2019年度は、次世代シークエンス(NGS)を用いた遺伝性結合組織疾患・原因遺伝子パネル解析で陰性であった167例に対するコピー数解析を予定していたが、新たに113の症例を加えて、計280例の解析を完了した。そのうち、6例(2.1%)においてコピー数異常を検出した。また、結果の検証は2020年度にマイクロアレイを用いて行う予定であったが、より安価で簡便なMLPA法に切り替え、2019年度中に終えることができた。EDSに関するアジア発の国際学会“Scientific Meeting Rarer types of EDS”が当教室主催で開催され、本成果を口頭発表し、世界のEDS専門家と討論・情報交換をすることができた。現在国際誌への投稿を目指し、データの整理・検討を行っている。さらに、遺伝子全域にコピー数異常を認めた症例については、ロングリードNGSを用いた構造解析にも取り組み始めた。以上のことから、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次世代シークエンス(NGS)データを用いたコピー数解析およびMLPA法による検証により明らかになった、当該遺伝子全域におけるコピー数異常に対しては、ロングリードNGSを用いてゲノム構造解析を行う。また、遺伝性結合組織疾患・原因遺伝子パネル解析における陰性症例に対するコピー数解析については新たな症例を追加し、今後も継続的に行う予定である。さらに、2020年度は、コピー数解析においても陰性であった症例の培養皮膚線維芽細胞由来のmRNAを用いて、イントロン深部(エクソンとの境界から離れた領域)および転写調節領域における病的バリアントを想定したmRNA解析を中心に進める予定である。具体的には、(1)mRNAのロングリードNGSによるスプライシング異常の検出(イントロン深部のバリアントを想定)、(2)mRNA発現解析による発現量低下の検出(転写調節領域のバリアントを想定)、を行い、異常が認められた例に対してゲノムシークエンスにより病的バリアントを特定する。
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Causes of Carryover |
研究が順調に進み、2020年度に計画していた内容の一部を2019年度中に実行するために前倒し請求をした。一部は2019年度中に実施することができたが、前倒し請求時に見込んでいたほどは進まずに次年度使用額が生じた。次年度使用額は2020年度請求額とあわせて当初の予定通り使用する計画である。
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Research Products
(1 results)