2019 Fiscal Year Research-status Report
静止期維持培養法による造血幹細胞加齢メカニズムの解明
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19K17847
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
小林 央 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (10749542)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 造血幹細胞 / ステムセルエイジング / 静止期維持培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
①造血幹細胞エイジングを促進する因子および抑制する因子の同定: 造血幹細胞の静止期維持培養下で加齢マーカーであるCD41およびP-selectinを誘導する因子を探索した。P-selectinの誘導は幹細胞維持因子でもあるTPOによって強く誘導される一方、CD41はTPOによって抑制されるという相異なる挙動を示した。またP-selectinは高脂肪酸濃度によっても誘導されることから脂質濃度を適切な範囲に抑えることが重要であった。CD41の発現誘導は、EPCR+ CD150+CD48-LSKの表面マーカーで規定される細胞とEPCR-CD150+CD48-LSKで規定される細胞とで異なる挙動を示し、EPCR+の造血幹細胞はCD41の発現がほとんど誘導されず、幹細胞分画内において加齢変化に抵抗性を示す分画が存在することがわかった。 ②造血幹細胞の長期培養法の改善: 使用するアルブミンのロットによって培養が安定しない課題があった。そこでまず培養条件を安定化させるためにこれまで未検討だったpH、脂質濃度、インスリン、培養容器形状等を検討し、それぞれ適切な範囲に収め、その上でSCF、TPOのサイトカイン濃度をることで造血幹細胞の培養法をより安定して行えるよう改善した。その上でこれまで非生理的な濃度であったアミノ酸、インスリン、グルコースの濃度を検討し、特に一部のアミノ酸によって上述のEPCRの発現が大きく変化することが明らかとなった。また培養法の一部は報告した(Cell Rep 2019)。 ③加齢メカニズムの解明: 加齢造血幹細胞に対してRNA-seq、ATAC-seq、およびプロテオミクスのマルチオミクス解析を行い、加齢造血幹細胞ではタンパクレベルにいたるまでグルタチオン合成関連タンパクが高発現しており、エピジェネティックにもNRF2結合領域がオープンであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
加齢因子の同定についてはCD41やP-selectinといった適切なマーカーを用いることで効率的に探索できており、TPOシグナルの加齢に果たす二面的な役割(P-selectinなどの巨核球プログラムを誘導する一方CD41の発現は抑制しより増殖しやすくするという若齢化誘導の性質を示す)や脂質の二面性(静止期維持には必要だが過剰量で加齢変化を誘導する)といった、それぞれの因子が生存と加齢の両者に役割を果たしていることを明らかにしつつある。また加齢メカニズムの分子機構については当初予定していたATAC-seqによるエピゲノム解析に加えてプロテオミクス解析を実施することで、より多層的に加齢変化を理解できている。加えて造血幹細胞分画内のEPCR+集団とEPCR-集団とで培養環境に対してCD41の発現について異なる応答を示すことが明らかになったことでに造血幹細胞の加齢変化のヘテロジェネィティーと外部環境の関係を調べることが可能となった。これらに伴って造血幹細胞の培養法も改善が進んでいることから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
① 造血幹細胞エイジングを促進する因子および抑制する因子の同定 よりアミノ酸なども含めより生理的な培養条件を見出したことからその条件の中で、これまで造血幹細胞の運命決定に影響を与える因子を順次加えCD41やP-selectinといった加齢マーカーにどのような変化が見られるかを検討する。またEPCR+造血幹細胞がEPCR-造血幹細胞よりも培養下においてCD41の発現に代表される加齢抵抗性を示すことから、両細胞集団の加齢因子(TPOや脂質)に対する違いを検討する。 ② 造血幹細胞の長期培養法の改善 アミノ酸の濃度を最適化することで従来以上に生理的な条件で培養しこれまで課題であった培養下におけるEvi1やHoxb5等の発言低下を防ぐことのできる培養条件を探索する。同様に、造血幹細胞の維持に必要とされるCXCL12やTGFβといった因子について改善した培養条件で改めて検討し、造血幹細胞を生理的な培養条件で維持する条件を見出す。 ③ 加齢メカニズムの解明 ATACシークエンスおよびプロテオミクスの結果から何らかの酸化ストレスによって誘導されるシグナルが造血幹細胞にエピジェネティックに記憶されることが推測される。どのような酸化ストレスが加齢造血幹細胞に見られるNRF2結合領域の活性化やタンパクレベルでのグルタチオン合成を引き起こすのか調べるとともに、その責任遺伝子の探索すすめる。
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