2020 Fiscal Year Research-status Report
成人T細胞性白血病リンパ腫におけるSTAT3活性化とインターフェロン療法の関連性
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19K17862
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
森近 一穂 琉球大学, 病院, 医員 (90793943)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 成人T細胞性白血病 / 免疫組織化学染色 / 遺伝子変異 / JAK-STAT3経路 / 予後予測マーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
成人T細胞性白血病(ATL)において、STAT3遺伝子異常や同活性化のsurrogate markerであるリン酸化STAT3(pSTAT3)発現が報告されているが、これらの関連性や臨床所見に与える影響について網羅的に解析された研究はなかった。我々はATLの中でもくすぶり型と慢性型においてSTAT3変異が有意に多く検出され、免疫組織化学染色によるpSTAT3陽性がこれらの病型における予後良好マーカーであることを確認した。この結果をCancer Sci. 2019;110(9):2982-2991. に報告した。 ATLは経過観察が主体であるくすぶり型および慢性型から、全身化学療法が必須であるリンパ腫型および急性型に急性転化を起こすことがある。この臨床学的進展は約半数の症例で観察されるものの、このイベントを未然に察知出来る指標が確立されていない。我々は収集した臨床データを詳しく解析し、急性転化を予測するマーカーの確立にも力を注いでいる。Cancer Scienceに報告した臨床データに新たな臨床データを加え、解析を進めている。 また、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)においても同様にJAK-STAT3経路の恒常的活性化が報告されている。しかし、治療成績や背景にある分子異常との関連は不明である。そこで我々は共に収集を進めていたDLBCLの病理検体を用いて、ATLと同様な研究を進めている。具体的には、STAT3活性化への関与が指摘されている代表的な分子学的異常(MYD88変異、STAT3変異、SOCS1変異およびEBウイルス感染)について診断時のフォルマリン固定検体265例を用いて解析し、臨床病理学的所見との関係性について調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ATLの急性転化予測については、代表的な腫瘍マーカーであるsIL-2R値が有用な可能性がある。sIL-2R値の推移を時間依存性解析を用いて解析することで急性転化を未然に予測する指標が確立される可能性が出てきた。 また、DLBCLにおけるJAK-STAT3経路活性化の研究結果として、pSTAT3はGCB型よりもnon-GCB型に有意に多く検出された(57% vs 28%, P < 0.001)。MYD88L265P変異、STAT3変異およびEBウイルス感染例は有意にpSTAT3発現に関連していたが(P < 0.001, P = 0.01, P = 0.019)、意外な事にSOCS1変異やnon-L265P型のMYD88変異との関連性は認めなかった。DLBCLにおけるSTAT3活性化には前3者の異常が特に重要であることがわかった。一般的にSTAT3活性化は細胞増殖を促進するため、pSTAT3陽性症例はより臨床的にaggressiveであると想定されるが、これまでの報告は予後に関して一定の結論に達していなかった。今回の網羅的な解析によりリン酸化STAT3陽性GCB型は5年生存率が92%であるのに対し、pSTAT3陽性non-GCB型は45%と、Cell of OriginによりpSTAT3発現の臨床的意義が大きく異なることがわかった。特にpSTAT3陽性GCB型はIPIも加えた多変量解析でも予後良好因子として抽出された(HR 0.17, 95%CI 0.04-0.7, P = 0.014)。リン酸化STAT3陽性GCB型はMYD88L265P変異、EZH2変異、EBウイルス感染、BCL2/MYCの再構成といった予後不良とされる分子異常を伴う頻度が有意に低く、このことが予後良好と関連する背景として考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の計画は以下の通りである。 ATLの急性転化予測については、さらに丁寧な解析と新しく独立した集団における確認作業を経て、論文化する予定である。 DLBCLについては既に投稿する段階にある。ゲノム異常と細胞表現型の関連性について、より深く探索していく必要性を示唆する結果として2021年度中の論文化が期待出来る。
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Causes of Carryover |
昨年度に出したデータで論文化を行っており、予定よりも支出が少なかった。また、臨床業務が予定外にエフォートを占めたため、基礎実験に割く時間を捻出できなかった。令和3年度はATL臨床検体の網羅的遺伝子解析およびメチル化シークエンスを行うため、これらに必要な試薬の購入に充てる。
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Research Products
(2 results)