2019 Fiscal Year Research-status Report
CDK4/6阻害による滑膜線維芽細胞選択的な関節リウマチ治療法の開発
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19K17884
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
細矢 匡 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (60737104)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 関節リウマチ / AP-1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では細胞周期制御分子であるCDK4/6の阻害が滑膜線維芽細胞からの炎症メディエーターの抑制をもたらすメカニズムを解析している。すでに転写因子AP-1の抑制が主なメカニズムであることがわかっていた。AP-1の発現は、サイトカイン刺激によって亢進するが、ベースラインおよび刺激後に誘導される発現レベルは、血清の濃度が極めて重要であることを明らかにした。血清中の成分のうち、CDK4/6依存的にAP-1の発現レベルを規定する因子を同定した。すなわち、CDK4/6の阻害が、血清依存的に決定されるAP-1の発現レベルおよび、サイトカイン刺激後のupregulationを抑制すること明らかにした。 滑膜線維芽細胞でAP-1が抑制される分子学的なメカニズムの解析では、あるAP-1構成因子のユビキチン化がCDK4/6の活性に依存して抑制されていること、CDK4/6を抑制すると、ユビキチン-プロテアソーム系を介してAP-1構成因子の分解が亢進することを明らかにした。 既報として報告されたCDK4/6の基質のうち、FOXM1の発現と制御を検討した。乳癌細胞株は既報通りCDK4/6阻害でFOXMの抑制が見られたが、滑膜線維芽細胞ではFOXMの発現レベルが極めて低く、従来の手法では検出できないことが分かった。酵素の基質には細胞特異性があるため、今後は滑膜線維芽細胞でCDK4/6の基質として働く分子を見出し、解析対象としていく。 本現象には細胞特異性がある可能性が示唆されていた。実際に、複数の血球細胞株を使用して、AP-1依存的とされるサイトカイン産生を検討しているが、CDK4/6阻害による抑制作用は見られなかった。よって、当初の仮説の通り、CDK4/6阻害が有する抗炎症作用は滑膜線維芽細胞に特異性が高いといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
CDK4/6阻害がもたらす線維芽細胞の炎症形質の変質を解析するために、抑制を受けるAP-1構成因子のノックダウンを試みた。複数の手法で形質転換を試みたが、primary cellであるためか、導入効率に問題があった。また、AP-1構成因子がredundantであるためか、単一のAP-1構成因子のノックダウンではその他のAP-1構成因子が代償的に発現亢進していることが分かった。引き続き形質転換の手法を模索して、CDK4/6が抑制するAP-1構成因子の発現低下がもたらす滑膜線維芽細胞の炎症形質変化を検証していく。 なお、CDK4/6の基質として報告されている分子が滑膜線維芽細胞でも同様であるかを検証しているが、十分に再現が取れていない。酵素の基質には細胞特異性があるため、今後は滑膜線維芽細胞でCDK4/6の基質として働く分子を見出し、解析対象としていく。
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Strategy for Future Research Activity |
血清中に含まれる因子がAP-1の発現レベルに重要である点を見出したが、CDK4/6の酵素活性の状態や、細胞周期との関連はまだ見いだせていない。すなわち、血清中の因子がCDK4/6の酵素活性亢進を通じてAP-1発現を誘導しているのか、CDK4/6活性はAP-1誘導への関与は低く、今回明らかにしたようにユビキチン-プロテアソーム依存性の分解系を制御することが中心的なメカニズムなのかを明らかにする。 また、これまでの検討では、CDK4/6阻害が有する抗炎症作用には細胞種特異性が明らかであった。将来的な抗リウマチ薬としての臨床応用を考えるうえでは、安全性の観点から炎症の生理的な作用は抑制しないことが望ましい。動物モデルの関節炎環境下での検討や、感染症モデルにおける病原微生物排除への影響を検討していく。
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Causes of Carryover |
CDK4/6阻害が滑膜線維芽細胞の遺伝子発現にもたらす影響を網羅的に解析するため、数名の関節リウマチ患者由来のサンプルを用いて、RNA-seqを行う予定であったが、実施が遅れていたため使用額と解離が生じた。サンプルの準備が整ったので、次年度に実施する予定である。 また、本現象の中心的役割を担うと推測される分子をターゲットとして同定しており、これらのノックダウンによって滑膜線維芽細胞の表現型がどのように変化するかを確認する。前述の通り、レンチウイルスを用いた実験系がうまくいかなかったことから、siRNAでの検討を予定している。 また、CDK4/6阻害薬の細胞種特異的な炎症抑制作用を解析するため、複数の動物モデルを用い、炎症抑制能の有無を解析する予定である。
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