2019 Fiscal Year Research-status Report
ノロウイルスをモデルとしたウイルス横断的創薬研究の基盤構築
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19K17921
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
林 宏典 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00752916)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ノロウイルス / 創薬 / ウイルス横断的創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
ノロウイルス (NoVs) はプラス鎖の一本鎖RNAウイルスであり、胃腸炎の原因となる。米国では毎年約2千万人が感染し、重症化による入院例や死亡例が報告されている。しかし、NoVに対する有効な治療薬は未だ開発されていない。本研究は、(1) ノロウイルス (NoV) 増殖に必須なsubgenomic core promoter (SG promoter) を応用したNoV持続的産生株の樹立と (2) HIV-1とNoVのプロテアーゼ (Pro) の共通点に着目した抗NoV剤のスクリーニング系の構築を行い、抗NoV剤開発の基盤構築を目的とする。 NoVのORF1にコードされたタンパク質の発現機構はHIV-1と類似しており、一つのアミノ酸鎖に繋がったpolyproteinとして発現された後、Proによって切断 (プロセッシング) されることでウイルスタンパク質として機能する。2019年度は、上記研究目的 (2) に該当する抗NoV剤のスクリーニング系の構築を主として行った。G-II4に分類されるNoV (gene bank code: DQ658413) の遺伝子配列を基に、NoVのORF1にコードされているウイルスタンパク質の内、p22, VPg, ProおよびRdRpの4種類をコードしたDNA (3027 bp) をpMXベクターに導入し配列確認を行った。現在、SG promoter下にルシフェラーゼ (nano-Luc) 及び蛍光性のRNA aptamer (Spinach) 配列を組みこんだベクターの構築を行っており、nano-Lucコード領域の上流に導入するSpinach配列をコードしたDNAを設計中である。今後は、これ等の構築した遺伝子をヒト細胞発現用のプロモーター下に導入し、スクリーニング系として実際に機能するかどうかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画していたスクリーニングの実験系構築に必要なプラスミドのクローニングに加え特筆すべき成果が得られたため論文化を行った。令和元年度は研究計画に従って、NoV-PolをコードしたDNAをウイルスRNAからではなくプライマーとPCRを用いて作成した。更に本研究に関連して行った研究により特筆すべき成果が得られたため論文化をおこなった。2019年度に本実験で標的としているノロウイルス同様、胃腸炎の原因となる細菌類、特に黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌に対する核酸アナログの有効性を検証した結果、ヒト細胞に対する毒性および既存の抗菌薬との交叉耐性を持たず薬剤耐性菌に高い抗菌活性を示す化合物を同定した。また、抗癌剤をプローブとして用いてピリミジン系核酸アナログの作用機序と標的タンパクの同定に成功した [Oe & Hayashi et al. ACS infectious diseases, 2019, in press]。近年、薬剤耐性菌 (AMR) が世界中で確認されており、世界保健機関がnational action plan on AMR を発表、主要国首脳会議 (G7) でも主要課題に挙がるなど、各国が協同して解決すべき重要課題となった。実際、AMRに起因する死亡者数は、このまま何も対策が講じられない場合、2050年には現在の癌の死亡者数を大きく上回り、1000万人を超えると予想されている。この様な背景を鑑みて我々の得た新規抗菌薬に関する研究成果がAMR対策に資する成果であると考え、早急に論文化を行った。論文作成に時間が割かれただけでなく、リバイス等の追加実験に当初想定していたより時間を割かれたが、NoVの研究を進めるだけでなく論文として成果を公表できたため当初の計画以上に進展しているとの判断を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの感染症治療薬の開発は、原因微生物や疾患ごとに高度に専門化された特化型研究により発展した。しかし、特化型研究で得られた成果は専門領域ごとに分断されており、それぞれが相乗効果を発揮するに至っていない。ウイルスの中には種類や生活環は全く異なるが、同じような機能又は構造を発揮するタンパク質を有するものが多く存在する。ウイルスの種に着目するのではなくウイルスの有するタンパク質及びその機能、構造に着目した「ウイルス横断的な創薬研究」を行い、現在、世界各国でパンデミックを引き起こしている新型コロナウイルス (SRAS-CoV-2) のように人類の脅威となるウイルスがアウトブレイクを起こした際により迅速に治療薬を開発し被害を最小限に止める為の研究基盤構築を目的とし研究を実施する。今後は、抗NoV阻害剤のスクリーニング系構築を行うと共に、NoV以外のウイルスへの研究範囲拡大も視野に入れた創薬開発も推進する。NoV研究はHIV-1とNoVのプロテアーゼがウイルスの生活環の中で果たす役割の類似性に着目したが、HIV-1は他のウイルスとも類似性を持つ。例えば、HIV-1のエンベロープはクラス1型の膜融合タンパクに分類されるが、麻疹やコロナウイルス、RSウイルスおよびインフルエンザウイルスの膜融合タンパクもクラス1型に分類されている。このようなウイルスの中には未だ有効な治療薬が存在しないものもある。SARS-CoV-2が示したように人獣共通の病原体がヒト-ヒト間で高い感染性を獲得した場合、人類の安全と衛生を脅かすパンデミックを引き起こす可能性を秘めている。今後、SARS-CoV-2のようなパンデミックを繰り返さない為に、「ウイルス横断的な創薬研究」の基盤を迅速に構築する必要がある。
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Causes of Carryover |
研究進度の項で記載したように、本研究と関連した研究で論文化すべき成果が得られたため、そちらの研究結果を論文化する事を優先した[Oe & Hayashi et al. ACS infectious diseases, 2019, in press]。これにより、令和元年度も抗NoV薬スクリーニング系構築計画に変更を加えクローニングの進度調整を行ったため次年度使用額が生じた。令和2年度は、令和元年度から繰り越した計画も含め実験を実施する予定である。また現在の新型コロナウイルス (SRAS-CoV-2) 蔓延の状況を鑑みて「ウイルス横断的な創薬研究」の基盤を可及的速やかに構築する必要があると考え、本研究で対象とするウイルスを拡大させた研究計画を実施予定である。本若手研究は、NoVを対象としているが、申請書に記載したように申請者が掲げる「ウイルス横断的な創薬研究」の基盤構築が本質的な目的であるため、研究対象とするウイルスの拡大は妥当である。今回生じた次年度使用額は基本的に当初予定していたNoV実験系構築の費用とするが、一部は、新たに計画した実験系の構築や作用機序解析の実験で必要となる消耗品にも使用する。
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Research Products
(7 results)