2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒトiPS由来膵β細胞シートを用いた1型糖尿病治療法の開発
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19K17968
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
望月 翔太 東京女子医科大学, 医学部, 医療練士研修生 (90814799)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 膵前駆細胞 / 細胞シート / 膵β細胞 / 成熟 / p53 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、①膵前駆細胞と脂肪由来間質細胞との遠心シート作製と移植、②膵β細胞の成熟機構の解明として、膵β細胞成熟におけるp53のシグナルに注目し研究をした。 研究費は主に上記の研究を遂行するための培地や転写因子、阻害薬などの購入費に当てた。 ① 膵前駆細胞と脂肪由来間質細胞の移植に関しては、第17回1型糖尿病研究会で現状の報告を行った。現在1型糖尿病に対する根本治療として、近年多能性幹細胞からのβ細胞の再生医療が注目されている。しかし分化誘導後のβ細胞は、インスリン分泌量やグルコース応答性などの機能性が依然未熟であり、ヒトへの応用に際しては、相応の細胞数の確保と移植が必要となり、それに伴う腫瘍化リスクおよび移植方法など解決すべき課題も数多く存在する。今回、独自の細胞シート技術により、細胞のみから成る組織の形成と移植によって再生医療を実現し、また最近独自の大量培養技術によりヒトiPS細胞由来膵前駆細胞の量産化を可能としている。その後、β細胞までの分化誘導にも成功している。しかし、β細胞の分化効率は低く、膵前駆細胞を用いた移植を行っている。独自の遠心法を用いたシート作製法、移植方法に関しても、上記学会で発表を行った。 ② 膵β細胞の成熟機構の解明に関しては、先行研究や他臓器の成熟に関しての論文を元に、研究を行っている。今回、p53シグナルに着目しており、幾つかの仮説を証明している。現在はβ細胞成熟と増殖能におけるp53シグナルの関与を検証している。②でまとまった結果を今後①の研究への応用を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は、当初、iPS細胞から膵β細胞を分化誘導し、移植を予定していたが、分化効率や費用、時間の問題もあり、膵前駆細胞を移植する方針とした。そこで、より未熟な状態で移植を行うことにより、in vivoでの成熟を期待した。そのため、膵前駆細胞と脂肪由来間質細胞を用いた遠心シート作製と移植を施行した。iPS細胞としては201B7細胞株と253G1細胞株を用いて分化誘導を行い、膵前駆細胞の分化誘導効率としては、膵β細胞への分化誘導に重要な転写因子であるPDX1陽性かつNkx6.1陽性細胞割合は両細胞ともに40%前後ほどを認めた。脂肪由来間質細胞は、SDラットの鼠蹊部脂肪から採取した。継代を行い、P4-6の細胞を使用した。シート作製時、細胞間接着のためラミニンⅤを用いた。シートの細胞足場としてフィブリノーゲンとトロンビンからフィブリンゲルを作製した。フィブリンゲルの濃度を調整するのにも時間を費やした。 作製したシートを免疫不全ラット(F344/NJcl-rnu/rnu)の肝表面、腎表面に移植を行なった。移植細胞数としては、3×10^6 cellsずつ、計6.0×10^6cellsで行った。当初は、ヌードラットにストレプトゾトシン(0.65mg/kg)を投与して1型糖尿病モデルを作製し、移植を行なっていたが、生着の問題であったり、高血糖による死亡を認めたため、現在は通常血糖のヌードラットに移植を行っている。肝表面に移植を行った群の方が生着状況はよかった。しかし、膵β細胞への分化誘導に関しては、免疫染色やPCR検査を2020年度に行う。 また、膵β細胞の成熟過程の検証として、p53 inhibitorであるPIfithrin-αを投与することにより、コントロール群(DMSO)と比較して増殖能の保持が確認でき、インスリンコンテントは有意差をもって、p53投与群で低下を認めた。
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Strategy for Future Research Activity |
膵前駆細胞と脂肪由来間質細胞の遠心シートの研究では、今後シートを積層させ、より生着効率をあげる移植方法も検証する。また、β細胞成熟過程で仮説を立てているp53シグナルについて、移植前後でのp53の遺伝子発現を比較し、β細胞成熟におけるp53の役割を明らかにする。移植生着の精度が上がれば、次にストレプトゾトシン投与による1型糖尿病モデルへの移植も検討する。移植後のヒトインスリンを採血後、ELISAで経時的に確認する。また、膵前駆細胞が脂肪由来間質細胞と共存することにより、成熟に与える影響(β細胞への分化誘導効率の向上、インスリン分泌能の増加など)も検証ができればと考えている。しかし、現時点では、膵前駆細胞、膵β細胞のみでの遠心シートでは、シート化が困難であり、細胞間接着の役割をするラミニンⅤの量、移植する細胞数も検討し、膵前駆細胞のみでのシート作製も行う。 膵β細胞の成熟機構の検証に関しては、p53シグナルinhibitorを使用したところ増殖能に有意差を認め、インスリン含有量に関しては、低下を認めた。現時点ではp53シグナルが増殖能、インスリン含有量に関与しうる可能性を見出したため、今後ROSなどp53の発現に関与する因子の発現量も測定をする。
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Causes of Carryover |
今年度、β細胞の成熟機構の解明および膵前駆細胞と脂肪由来間質細胞の遠心シートの研究を遂行するにあたり、iPS細胞からの分化誘導を行う際に、多くの転写因子を購入したため、当初の使用予定予算に達し、追加申請を行い研究を行っていた。ところが、未使用額が生じたため、引き続き来年度の膵前駆細胞分化誘導における培地、転写因子のなどの購入費に当てる予定である。
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