2020 Fiscal Year Research-status Report
新規糖尿病関連遺伝子UBE2E2の膵β細胞における役割の解明
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19K17977
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桜井 賛孝 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70748376)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インスリン分泌 / 膵β細胞 / ユビキチン |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景と目的】GWASにより東アジア人に特徴的な2型糖尿病関連遺伝子としてユビキチン修飾系関連分子であるUBE2E2が報告されているが、その機序は不明である。そこで膵β細胞特異的UBE2E2トランスジェニック(TG)マウスを作製し表現型を解析した。【方法】マウス膵島のmRNA由来のcDNAをもとにUBE2E2蛋白をコードするexon2-6の領域をクローニングし、RIPプロモーター下に配置したコンストラクトを構築し作製した。【結果】独立した2ラインのTGマウスの膵島におけるUBE2E2は蛋白レベルで十分に過剰発現されており、過剰発現は膵β細胞に特異的であった。また、摂餌量、体重、随時血糖、インスリン感受性のいずれも対照群と同等であったが、経口/経腹腔的糖負荷試験のいずれにおいてもインスリン分泌低下を伴う高血糖を呈し、膵組織像ではβ細胞量の減少を認めた。同様の所見は若週齢でも認めた。一方、単離膵島のインスリン遺伝子発現やグルコース応答性インスリン分泌は対称群と同等であった。プロテオーム解析の結果、TGマウスの膵島では膵癌等で高発現しているMesothelin(MSLN)の著明な低下を認め、この発現低下はmRNAレベルでも認めた。MSLN遺伝子は他の組織に比較して膵島で高発現であった。また、MSLNの免疫組織染色では、アダルト期よりも生後1-3週齢で発現増加を認めたが、同時期においてもTGマウスの膵島のMSLNの発現は低かった。【結論】膵β細胞のUBE2E2の過剰発現は膵β細胞量の低下を介してin vivoにおける糖負荷後のインスリン分泌低下に関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
このTGマウスは、摂餌量、体重、随時血糖のいずれも対照群と同等であったが、経口/腹腔内糖負荷試験ではインスリン分泌低下を伴う高血糖を呈した。TGマウスの単離膵島におけるインスリン遺伝子や、β細胞の分化・成熟に関与する遺伝子の発現は対照群と同等だった。また、TGマウスでは膵島1個当たりの平均インスリン含量の低下を認めたものの、インスリン含量で補正したグルコース応答性のインスリン分泌は保たれていた。免疫組織染色による膵組織像の評価では、TGマウスの膵島は平均径が有意に小さく、全体としてβ細胞量の有意な低下を認めた。単離膵島を用いたプロテオーム解析の結果、TGマウスの膵島では膵癌等で高発現しているMesothelin(MSLN)の著明な低下を認め、この発現低下はmRNAレベルでも認めた。MSLN遺伝子は他の組織に比較して膵島で高発現であった。MSLNの免疫組織染色では、アダルト期よりも生後1~3週齢で発現増加を認めたが、同時期においてもTGマウスの膵島のMSLNの発現は低かった。 一連の結果から、膵β細胞特異的にUBE2E2を過剰発現したマウスでは、個体としてのβ細胞量の低下が若週齢時から生じており、このことが糖負荷後のインスリン分泌低下という表現型の主な原因と考えられた。また、網羅的解析の結果から、MSLNが低いことがβ細胞量の低下に関連している可能性が示唆された。β細胞におけるMSLNの役割を検討するための実験系や、その他、膵β細胞量の低下の機序を検討する実験系に関して予備検討も進めており、予定通りに進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
UBE2E2の過剰発現により、MSLNがmRNAレベル、蛋白レベルのいずれにおいても低下していた。UBE2E2は転写因子ではないので、UBE2E2の過剰発現により何らかの転写因子がユビキチン化されMSLNの発現が低下していると推測されるが、そもそも病態形成にMSLNがどのように寄与しているのかを評価したいと考えた。MSLNの全身ノックアウトマウスは表現型が特にないことが既報で明らかになっているが、耐糖能は未評価である。そこで、CRISPR-Cas9システムを用いてMLSN全身KOマウスを独自に作製したので、その表現型を現在解析中である。 また、膵β細胞特異的UBE2E2トランスジェニックマウスの膵島は、細胞周期の制御因子の一つであるp21遺伝子の発現が有意に高いという所見も認めている。ストレプトゾシンや各種ストレスの誘導剤を用いた刺激でp21遺伝子の発現が増加することが知られているが、その際にTGマウスの膵島で引き起こされる変化についても検証を進めることで、表現型に対するp21遺伝子の発現高値の意義を明らかにする。さらに、単離膵島をプロテアソーム阻害剤で処理した後にプロテオーム解析を行うことで、UBE2E2過剰発現によりユビキチン付加が亢進した分子の同定を目指す。
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Research Products
(4 results)