2019 Fiscal Year Research-status Report
乳がんにおけるIL17RBの細胞生物学的・腫瘍免疫学的・臨床的意義の解明
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19K18073
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Research Institution | Okinaka Memorial Institute for Medical Research |
Principal Investigator |
尾崎 由記範 (財)冲中記念成人病研究所, その他部局等, 研究員 (60756683)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 乳がん / IL17RB / がん幹細胞 / 免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳がんは比較的予後良好ながんとされているが、転移または再発乳がんは根治困難であり、依然として予後不良である。がん細胞におけるIL17RB発現が乳がんをはじめとするがん患者で予後不良因子であることが最近報告されているが、がん細胞における生物学的な特性やがん微小環境、免疫ネットワークに与える影響などは、未だ明らかでない。本研究では、乳がんにおけるIL17RB分子の腫瘍生物学的、腫瘍免疫学的、臨床的意義を明らかにすることを目的に、本年度はまず、その研究材料としてIL17RB発現が低レベルのマウス乳がん細胞株4T1を用いてIL17RB強制発現細胞株を作製・樹立し、その形態学的変化、増殖能、接着能、浸潤能をin vitroにて評価した。その結果、親株やMock株と比較して、IL17RBの強制発現によって、細胞の増殖性と接着性はともに有意に低下し、浸潤性は増強されることが分かった。つまり、IL17RB 発現によってEMT形質に転じることが示唆された。今後は、これらの細胞株を使ってin vitro, in vivo解析を進めて行く。一方、乳がん患者の腫瘍組織切片ならびに臨床情報を100症例以上収集し、まずは免疫組織化学染色法でIL17RB発現を解析し、臨床データとの関係性を比較評価した。その結果、IL17RBの発現パターンは3つに分けられ(陰性69%、弱陽性23%、陽性9%)、陰性群に比べて陽性(弱陽性+陽性)症例群では無再発生存期間が統計学的有意に短いことが分かった。つまり、乳がん患者の腫瘍組織におけるIL17RB発現は、重要な予後不良規定因子であることが臨床レベルで示唆された。今後も引き続き、IL17RB周辺の分子についても解析し、臨床的評価を継続していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、乳がんにおけるIL17RB分子の腫瘍生物学的、腫瘍免疫学的、臨床的意義を明らかにすることを目的に、本年度はまず、今後in vitro, in vivo解析を進めるための研究材料としてIL17RB強制発現細胞株を作製すべく、マウスやヒトの様々な乳がん細胞のIL17RB発現をフローサイトメトリーで解析し、その中からIL17RB低発現のマウス乳がん細胞株4T1を選択した。その細胞株にneo耐性遺伝子を同時に発現するIL17RBプラスミド・ベクターをPEI法にて導入し、G418添加培養下でベクター導入細胞を樹立、その中から、フローサイトメトリー解析によって最もIL17RB発現が高かった3クローンを選択して細胞機能を評価した。その結果、親株または空ベクターを導入したMock株と比較して、IL17RB強制発現細胞株では、細胞の増殖性と接着性はともに有意に低く、浸潤性は高いことが分かった。これらの特性はEMT形質を代表するものであり、IL17RB 発現によってがん細胞は難治性を増すことが示唆された。今後は、これらの細胞株を用いて、in vitro, in vivo解析を進めて行く。一方、切除可能乳がん患者115人の腫瘍組織切片ならびに臨床情報を収集したのち、免疫組織化学染色法でIL17RB発現を解析し、臨床データとの関係性を比較評価した。その結果、IL17RBの発現パターンは、陰性 (69%)、弱陽性 (23%)、陽性(9%)の3つに分かれること、陰性群に比べて陽性(弱陽性+陽性)症例群では無再発生存期間が統計学的有意に短いことが分かった。腫瘍径、リンパ節転移の有無などの病期、組織学的悪性度との有意な相関はみられなかった。つまり、乳がん患者の腫瘍組織におけるIL17RB発現は、予後不良規定因子であることを明らかにすることができた。今後も臨床解析を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において、IL17RBの強制発現によって、乳がん細胞は極めてdormantで増殖性が低く、低接着性でsphere colonyを形成しやすく、自己複製能が極めて高いことが判明し、がん幹細胞性との関係性が強く示唆された。乳がんは比較的予後良好ながんとされているものの、転移または再発乳がんは根治困難であり、依然として予後不良であることから、乳がん患者の無再発生存期間と密接に逆相関性を示した予後不良因子であるIL17RBを標的とすることは、乳がん治療に大きく貢献すると期待される。しかしながら、乳がんに限らず、がん幹細胞を標的とした有効な治療法は未だ開発されていないことから、新たな治療法を開発するだけでなく、既存の治療法をうまく生かすためにも、今後は、これらのIL17RB強制発現細胞株を用いて、様々な化学療法剤や分子標的薬などを用いてin vitro培養する感受性試験や、マウス乳がんモデルを用いて化学療法剤や免疫チェックポイント阻害剤などを投与するin vivo治療実験などを順次進め、腫瘍増殖や転移などに対する直接的な抗腫瘍効果を評価するだけでなく、がん微小環境や免疫系との関係性も明らかにするため、腫瘍組織や脾臓などから採取した免疫細胞の表現型や細胞機能なども評価し、乳がんにおけるIL17RB発現について総合的な解析を進める。一方、本年度収集した乳がん患者の腫瘍組織切片と臨床情報を活用し、IL17RBのリガンド分子の発現性や、抗腫瘍免疫ネットワークで機能するCTLや免疫制御性細胞群などについても免疫組織化学染色法で解析し、乳がん組織におけるIL17RB発現の臨床的意義をさらに深化させていく。
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