2019 Fiscal Year Research-status Report
大動脈解離におけるチロシンキナーゼSykによる生体防御機構の解明と治療応用
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19K18197
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
橋本 洋平 久留米大学, 医学部, 助教 (10811086)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | spleen tyrosine kinase / マクロファージ / 平滑筋 / Syk / 大動脈解離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、大動脈解離における非受容体チロシンキナーゼSykの役割を明らかにし、大動脈解離に対する保護メカニズムを解明する。我々はβアミノプロピオニトリルとアンジオテンシンⅡ(BAPN+AngII)の持続点滴によって、14日以内にマウスの約80%で大動脈解離を生じる大動脈解離モデルの作製方を確立している。活性化(リン酸化)されたSyk(pSyk)に対し免疫組織化学染色を行ったところ、Sykは解離発生後の大動脈壁でSyk活性を認めた。pSykと平滑筋αアクチンに対する二重蛍光抗体法では、Sykは浸潤炎症細胞でだけでなく、解離組織の平滑筋細胞でも活発であることを示した。ウェスタンブロット解析では、薬剤投与3日目で解離発生前にSyk活性化がみられ、その後一時的に活性が収まった後、薬剤投与14日目で解離発生後に再活性がみられた。Syk活性化の有意性を評価するため、BAPN+AngII注入前よりfostamatinib(特異的Syk抑制薬)をマウスに投与した。結果、fostamatinib投与群は、コントロール群と比較してより重篤な解離の進展を認めた。解離病変長は、コントロール群で3.80±0.86mm、fostamatinib群(P < 0.05)では8.87±1.69mmで病変長にも差を認めた。また、fostamatinib投与は大動脈破裂によるマウスの死亡率においても有意に悪化がみられた。トランスクリプトーム分析では、fostamatinibが免疫応答、防御反応と炎症反応の陽性および陰性調節装置を抑制することが分かった。 これらの発見は、平滑筋および浸潤炎症細胞でのSyk活性が、大動脈解離病態において総合的に大動脈組織を保護的に作用していると可能性を示唆した。細胞機能に着目した解離病態の解明を行うために、組織特異的ノックアウトマウスを用いて野生型マウスと比較する計画を実行する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス解離モデルにおけるSykの役割を明らかにするためSyk阻害薬を投与し、解離病変長と死亡率の増悪を認めた。現在は解離発症直前の大動脈組織におけるSykおよびその他タンパクの解析を進めている。 マウス解離モデルの解析で、解離刺激が大動脈のSyk活性を亢進することを明らかにした。この知見に基づき、平滑筋細胞およびマクロファージ特異的Syk KOマウスによる解析を予定している。既にコンディショナルノックアウトマウス作成のためのfloxマウスとCre発現マウスを入手し交配を開始している。 以上より、解離病態におけるSykの役割解明は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
大動脈解離の進展・増悪メカニズムへのSykの関与を明らかにするために、解離発症前の大動脈組織におけるSykおよびその他タンパクの分子動態を観察する。解離刺激が平滑筋細胞および炎症細胞においてSykを活性化することが認められたため、当該組織の特異的ノックアウトマウスでSykの役割を検討する。ヒト解離組織を用いて、マウスで得られた結果がヒト病態に当てはまるかどうかを検証する。
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Causes of Carryover |
Bio-Plexによるサイトカインの発現定量解析を予定していたが新型肺炎の影響もあり納入が次年度となったため、次年度使用額が生じた。予算の一部を今年度の試薬類に充て研究の加速を図った。次年度使用額は主にBio-Plexおよびその解析と論文執筆に充てる予定である。
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