2019 Fiscal Year Research-status Report
老齢期における抗不安薬ジアゼパム長期使用による認知機能障害の発生メカニズム解明
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19K18234
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
古川 智範 弘前大学, 医学研究科, 助教 (60402369)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | benzodiazepine / diazepam / Lcn2 / Aged |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題ではBZ系薬剤 の長期暴露がどのようなメカニズムで神経傷害を起こし認知機能を低下させるのかを解明することを目標とし、認知機能に関わると考えられる海馬神経回路機能およびLcn2の発現調節機構の評価・解析を行った。BZ系薬剤であるジアゼパム(DZP)を長期投与した老齢マウス(12~13ヶ月齢)を用いて、学習・記憶に関わる海馬のCA1領域および記憶の想起に関わるCA3領域における長期増強(LTP)現象を解析した。その結果、CA1領域ではDZP長期投与によるLTPの減弱が認められなかったが、CA3領域においてはDZP長期投与によりLTPが減弱することがわかった。この結果は、老齢マウスにおけるDZPの長期投与は記憶の想起能力を低下させ、認知機能低下の一因である可能性を示唆している。また、若齢マウスでもDZP長期投与による海馬LTPの減弱が認められたが、若齢マウスのLTPは老齢よりも強く増強されており、LTP増強度はDZP長期投与若齢マウスと非投与老齢マウスにおいて同程度であった。この結果から、海馬神経シナプス可塑性は加齢に伴って減弱しており、老齢マウスはDZP長期投与による認知機能減弱作用を受けやすい可能性が高いと考えられる。 DZPによるLcn2発現調節機構を明らかにするため、レポータージーンアッセイを行ってDZP応答性配列(DRE)を絞り込み、Pax2、Atoh1、Neurog1の3つを調節因子候補として選定した。また、DZP投与によってLcn2の発現が増加するミクログリア培養細胞を用いて、DZP投与が転写を亢進させることを確認した。これらの成果は、BZ系薬剤による認知機能低下のメカニズム解明に繋がると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのマウス脳組織の研究結果においてDZP投与によるミクログリア細胞の活性化は認められておらず、神経細胞の細胞死や細胞新生の減少も生じていないことから、神経細胞数の減少が認知機能の低下の原因ではないことを明らかである。そこで、シナプスの可塑的変化を評価するため、DZP長期投与モデルマウスをもちいて海馬CA1領域およびCA3のLTPを解析した。老齢マウス海馬CA1領域ではDZP長期投与によるLTPへの影響は認められなかったが、CA3領域では影響が認められたことから、DZP長期投与による影響は局所的であり、想起能力を低下させる可能性が示唆された。また、DZP長期投与に対する海馬神経機能の脆弱性は加齢とともに高まることが明らかになった。加齢による認知機能の減弱は、運動負荷により抑えられることが知られており、今後の新たな研究展開が期待できる。
これまでの培養細胞を用いた研究結果において、DZP投与によるLcn2の発現増加はGABAの同時投与の影響が認められなかったが、DZP投与が転写を活性させることを確認した。これらの結果はDZPがGABA受容体ではなく他の経路を介してLcn2発現の調節を行っている可能性が高いことを示唆している。今後、ChiPアッセイによって候補因子のさらなる解析を行うことでLcn2発現調節機構の詳細を明らかにできると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、認知機能に関わるLTPやスパイン密度がDZP長期投与によって減少・低下することが明らかとなった。また、加齢に伴うLTP増強度が低下している老齢マウスにおいては、DZP長期投与の認知機能低下に対する影響が比較的大きくなることを明らかにした。しかしながら、DZPがどのような経路でシナプス可塑性や形態の変化を引き起こすのかは未解明である。培養細胞を用いた実験結果から、DZP長期投与による変化はGABA受容体を介さずに惹起される可能性も考えられる。また、シナプス可塑性や形態の制御や維持にLcn2が関与する可能性が報告されている。これらのことをふまえて、DZP投与によって発現が増加するLcn2と海馬神経回路機能低下の因果関係を明らかにするとともに、DZPの制御を受けるLcn2発現調節機構を究明していく。さらに、加齢に伴って変化しうる脳内分子を調べ、老齢期においてDZP長期暴露の影響が大きい原因を探る。そして、Lcn2発現の抑制や強制運動負荷などを行うことにより、DZP長期投与による認知機能の低下を抑制させることができるか検討していく。
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Causes of Carryover |
学会の紙上開催などへの変更により旅費を物品費に充当し、わずかに余った。 少額であることから、次年度も使用計画はほぼ予定通りである。
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Research Products
(4 results)