2019 Fiscal Year Research-status Report
HIV関連神経障害モデルラットを用いた神経障害性疼痛の機序解明と治療への応用
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19K18258
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
佐藤 泉 旭川医科大学, 大学病院, 医員 (70624196)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 漢方薬 / HIV関連神経障害性疼痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はHIV関連神経障害性疼痛モデルラットに漢方薬を投与し、動物行動学および分子生物学的に効果を確認することを目的とする。また、HIV感染患者にアンケート調査を行い、HIV関連神経障害の特徴や本邦におけるHIV感染の現状について調査する。最終的にはこれらの調査結果をHIV関連神経障害性疼痛に対する治療に臨床応用する。 まずは組み換えHIV-1エンベロープタンパク質であるgp120を坐骨神経に巻き付けることによって神経障害性疼痛を誘発したHIV関連神経障害性疼痛モデルラットを用いて、HIV誘発性アロディニアに対する牛車腎気丸の効果を調べた。ラットを無作為にHIV関連神経障害性疼痛(gp120)群、牛車腎気丸投与gp120群、偽手術群、および牛車腎気丸投与偽手術群の4群のうち一つに割り当て、機械的閾値をvon Frey filamentsを用いて調べたところ、 牛車腎気丸投与gp120群はgp120群と比較してアロディニアの改善を認めた。さらに、gp120手術または偽手術後14日目に脊髄を摘出し、 GABA合成の主要酵素であるGAD 67の量をウエスタンブロットを用いて調べた。 牛車腎気丸を投与したgp120群でのGAD67の発現は、コントロール群での発現よりも有意に高かった。 この結果より、牛車腎気丸がgp120によりダウンレギュレートされたGABA作動性システムを逆転させることにより、HIV誘発性アロディニアを緩和することが示唆された。 一方、本邦におけるHIVの現状やHIV関連神経障害性疼痛の実態についてのアンケート調査では、体のどこかに痛みやしびれを自覚する患者が25~35%程度含まれていた。HIV感染患者の約10~30%にHIVに関連した神経障害性疼痛を有するという欧米の報告に近い割合で、本邦においてもHIV関連神経障害性疼痛の患者が存在している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
モデルラットを用いたHIV関連神経障害性疼痛に対する漢方治療の有効性についての検討では、動物行動学的検討として、Von Freyフィラメントによる疼痛閾値評価を行い、コントロール群と比較して牛車腎気丸投与群で機械的閾値が有意に上昇し、牛車腎気丸がHIV関連神経障害性疼痛に有効である可能性が示唆された。さらにウエスタンブロット法を用いた分子生物学的検討において、一部の鎮痛機序が確認された。本邦におけるHIVの現状やHIV関連神経障害性疼痛の実態についてのアンケート調査は、当初の目標数である200症例を達成したが、さらに症例数が集まりそうであるため目標症例を300症例に増やして調査を継続中である。そのため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本邦におけるHIV感染症の現状やHIV関連神経障害性疼痛の実態についてのアンケート調査は当初の目標数を達成したが、当初予想していたより多くのサンプルが集まりそうであり、調査を継続してさらに症例数を集めた上で最終的な集計を行う予定である。モデルラットを用いたHIV関連神経障害性疼痛に対する牛車腎気丸の有効性については、PCR法とウエスタンブロット法を用いて他の疼痛関連物質についても調査を行い、鎮痛メカニズムの詳細についてさらなる検討を行っている。最適な投与タイミングや投与量についても検討したいと考えている。今後、牛車腎気丸以外の漢方薬についても動物行動学的検討を行い、他にも有効性が期待される漢方薬があれば同様に脊髄の検体を用いて分子生物学的検討を行う。臨床現場においてもHIV関連神経障害性疼痛に対する漢方薬の有効性について検討を行いたいと考えている。さらに、HIV関連神経障害性疼痛モデルラットを用いて漢方治療と遺伝子治療を組み合わせることによるHIV関連神経障害への相乗効果についても検討を行う。
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Causes of Carryover |
当該年度の予算内に収まるよう慎重に使用したところ、若干の余りが生じたため次年度使用額が生じた。次年度使用額は抗体、ピペットなどの消耗品の購入、ラットの購入、ラットの飼育などに使用する予定である。
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Research Products
(2 results)