2019 Fiscal Year Research-status Report
腹腔鏡手術の痛み:モデルラットによる術中術後痛のメカニズム解明と有効鎮痛法の検討
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19K18268
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
中村 博之 信州大学, 医学部附属病院, 医員 (20838370)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 気腹 / 術後痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
はじめに、ラットを用いた気腹モデルの疼痛評価をおこなうにあたり前提として求められる、小動物気管挿管手技を習得するとともに、気腹状態のラットの気道への負荷軽減を目的としたチューブ径・チューブ長を決定した。 セボフルランによる全身麻酔の導入後、経口的に気管挿管を行い陽圧換気下でラットを仰臥位にして腹腔内に18ゲージ注射針を留置、約60分間の気腹状態においた。気腹ガスとして医療現場で一般的に用いられている二酸化炭素を使用し、20 cm水柱の気腹圧をラット腹腔内にかけることで麻酔覚醒後の経時的な疼痛評価を試みた。また、対照群として同様の処置を行うが、二酸化炭素回路を開放することで気腹圧をかけない対照群を設定した。 腹部へのvon Freyフィラメントを用いた疼痛閾値の評価を行ったが、気腹ラットにおいて個体間のばらつきが大きく、著しい痛覚閾値低下を示すラットがいる一方で、強いストレス状態によって生じるとされる”Freezing”状態と思われる運動量減少・刺激反応性低下を示す個体も多く存在した。その要因としては気腹によるストレスに加え、麻酔中の外気温変化及び体温変化による身体的ストレス、二酸化炭素が経粘膜的に吸収されることで生じうる高二酸化炭素血症が考えられた。臨床に即した体温管理を行うため、実験中の中枢温測定と体温保持を目的とした加温を行ったが、現状では適切な加温環境の整備が困難で過剰に加温してしまうといった課題の解決を模索している。また、高二酸化炭素血症についても、循環血症量の限られる小動物で、血液ガス測定を頻回に行い血中二酸化炭素濃度を評価することは現実的ではないため、人工呼吸換気の適正化の手段について検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
挿管手技の安定に時間を要した。気腹による胸郭内臓器の偏移に起因する気管チューブの位置異常や内腔閉塞が度々生じ、適切なチューブ長の模索に時間を費やした。さらに、挿管刺激による声門閉鎖および挿管困難を生じやすい状況にあり習練に時間を要した。この点は挿管器具の改良と手技の反復練習により、比較的安定的に挿管手技を行えるようになった。 実験室が外気温の変化を受けやすい環境であるため、実験環境の年間を通じて安定した温度管理に難渋している。直腸温を指標とした実験動物の体温維持を試みているが、環境温変化に加え加温装置の調節性の悪さから急激な体温上昇と低体温を繰り返すなどの課題に直面している。 気腹中のガス交換評価が困難であり、適切な換気設定・気腹圧変更を検討している。気腹が長時間に及ぶことで生じる変化として、腸管膜内の微小血管から二酸化炭素が粘膜吸収され高二酸化炭素血症となることが知られている。さらに前述のチューブ位置異常でも高二酸化炭素血症を生じうるため、血中二酸化炭素濃度の計測や呼気中二酸化炭素分圧の測定による評価が望ましい。しかしながら循環血症量が限られる小動物での頻回な血液検査は侵襲が大きく、実験結果への影響も否定できないため現実的でない。小動物用呼気二酸化炭素測定装置の使用について検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現況では疼痛閾値の主な指標としてvon Freyフィラメントを用いた機械刺激閾値を採用しているが、今後は気腹の痛みとの関与が考えられる、食餌量変化や体重増減評価なども含めて多角的な評価を行いたい。また、行動実験に加え、電気生理学的手法や免疫染色などの客観的な指標を用いて気腹刺激が及ぶ脊髄レベルや程度についての評価の可能性を模索したい。
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Causes of Carryover |
当初の計画見込みより安価に実験が進行したため、次年度使用額が生じた。
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