2020 Fiscal Year Research-status Report
血小板機能温存を重視した新たな希釈式自己血輸血法の確立
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19K18293
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川本 修司 京都大学, 医学研究科, 助教 (80766668)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 血小板 / 希釈式自己血輸血法 / P-selectin / 血液保存バッグ / ポリオレフィン / 人工心肺 / 心臓血管外科手術 |
Outline of Annual Research Achievements |
希釈式自己血輸血法(ANH)は、全身麻酔導入後に採血をした後、代用血漿の輸液により循環血液量を保って患者の血液を希釈状態にし、手術時の実質的出血量を軽減することを目的として、手術終了間際に返血する方法である。赤血球と同様に血小板の輸血法として期待され、特に心臓手術では術後出血量を減少させると報告されている。心臓手術では体外循環などにより血小板機能が低下するため、ANHによる「新鮮な」血小板輸血による止血能増加が期待される。しかし、これまでの研究で、ANHでの全血保存は血小板の凝集性を14.7~76.3%低下させ、この低下は再投与後も回復しないことが明らかになっている。そこで、血小板濃厚液の保存方法を参考に、ポリオレフィン製バッグを用いた新しい全血保存方法(6時間)が、従来のポリ塩化ビニル製バッグを用いた方法よりも血小板機能を維持できるかどうかを検討した。今回、ポリオレフィン製バッグで全血を保存すると、ADP刺激下凝集率がポリ塩化ビニル製バッグに比べて2倍以上高く維持され、血小板活性化マーカーであるP-セレクチン発現(高いほど血小板機能の劣化を示す)も有意に抑制されることを実証した(ADP刺激下凝集率: 24.6±5.1% vs. 51.7±11.5%, p=0.002, P-セレクチン発現:50.3±8.4MFI vs. 31.6±9.3MFI, p=0.018)。これらの結果は、ポリオレフィンの高いガス透過性により、撹拌の有無にかかわらずPCO2が低下し、高いpHが維持されたことによると考えられる。保存方法による血小板数や赤血球パラメータの有意な変化は見られなかった。以上の結果から,ポリオレフィン製バッグを用いたANHは、従来の方法に比べて止血機能の向上に有利であることが示唆された。上記内容を第67回日本麻酔科学会学術集会等にて発表し、現在その内容を論文化し投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ポリオレフィン製バッグを用いたANHは,従来の塩化ビニルバッグを用いた保存方法に比べて止血機能(ADP刺激下血小板凝集能およびP-selectin発現)の向上に有利であることをin vitroにおいて示すことができた。その内容を第67回日本麻酔科学会学術集会にて発表し、現在その内容を論文化し投稿中である。新型コロナウイルス感染拡大により緊急事態宣言中は研究が一時休止となり、手術制限も行われたが、概ね順調に進展している。次の段階として、心臓血管外科患者を対象とした実験を計画しており、院内倫理委員会の認可も得られたため、近く開始予定としている。
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Strategy for Future Research Activity |
今回学会で発表し、論文化した研究はin vitroで行われたため、保存された血小板のin vivoでの止血効果や生存時間、赤血球機能を評価することはできなかった。次段階として、実際に心臓血管外科手術を受ける患者を対象とした実験を計画している。全身麻酔導入後に採血を行い、ポリオレフィンバッグ保存群と塩化ビニルバッグ保存群に分け、人工心肺離脱後に採取した血液と混和してどの程度血小板機能や包括的止血能が改善するかを検証することを計画しており、すでに院内の倫理委員会の認可を取得して近日中に開始予定である。また、保存液に添加する抗凝固薬として、静注タイプの抗血小板薬であるカングレロールを用いた実験も計画している。カングレロールは血中に存在する脱リン酸化酵素で分解され短時間作用であることから、調節性にも優れており、血小板の体外保存による品質劣化抑制に大きく寄与できる可能性があると考えている。さらに濃厚血小板溶液の4℃での低温保存は、すでに米国ではFDA認可を受け血小板としての生存期間は短縮させるものの止血効果の上昇が報告されていることから、冷蔵保存の希釈式自己血輸血への適応も今後検討する。評価ツールとして、血液粘弾性検査装置TEG6sを用いた包括的止血能の評価も行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大により、心臓血管外科患者を対象とした実験計画の開始に遅れが生じたためである。また緊急事態宣言中は大学内への出入りが制限され実験遂行が一時休止となったためである。院内倫理委員会での承認がようやく得られたため、近日中に開始予定である。
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Research Products
(11 results)