2019 Fiscal Year Research-status Report
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)における酸素ナノバブル経静脈投与の有効性の検討
Project/Area Number |
19K18332
|
Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
吉田 圭佑 福島県立医科大学, 医学部, 客員研究員 (00769573)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 酸素ナノバブル / ARDS |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景・目的】敗血症に起因した急性呼吸不全の呼吸管理においては、肺組織の過度な炎症反応を抑制することが重要である。酸素ナノバブル(oxygen nanobubbles : ONB)は直径100 nm前後の極微小な気泡であり、抗炎症作用を持つことが示されている。 【方法】雄性Sprague-Dawely ラットを用い、ONB群(n=6)と対照群(n=6)を比較した。メデトミジン・ミダゾラム・ブトルファノールによる麻酔下に尾静脈より輸液路を確保し、ONB群ではナノバブル発生装置(IDEC株式会社、大阪)で生理食塩水を元に作成したONB水を、対照群では生理食塩水の持続投与を各々4 mL/kg/hで開始した。その後気管切開を行い、人工呼吸(吸入酸素濃度1.0)を開始した後、頸動脈にカニュレーションし動脈圧をモニタリングした。ONB水または生理食塩水の投与から60分後に、塩酸(pH 1.5)を左側臥位で0.4 mL/kg、右側臥位で0.7 mL/kg気管内に投与し肺全体に浸透させ、急性肺障害モデルラットを作成した。塩酸投与から30分毎に動脈血0.2 mLを採取し動脈血酸素分圧(PaO2)を測定した。また、60分毎に動脈血1 mLを採取し、血中の炎症性サイトカイン(IL-6, TNF-α)を測定した。塩酸投与から240分後に安楽死させ、肺を摘出し組織学的変化を観察した。 【結果】気管内塩酸投与から4時間後までのPaO2は、すべての時間帯でONB群と対照群の間に有意差はなかった(図1)。また、2群間の平均動脈圧、IL-6、TNF-αに有意差はなかった。組織学的には、両群ともに肺胞腔内への滲出性変化を認めた。本研究では、悪化したPaO2、平均動脈圧、の改善はなく、IL-6、TNF-αの増加も抑制されず、今回用いたONBの投与量では、抗炎症作用は確認できなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた急性実験(ARDSモデルラットを作成後に、酸素ナノバブルを4時間投与し、酸素化、炎症性サイトカイン、肺組織を評価する)は完了した。この時点で酸素ナノバブルのARDSに対する有効性が見られなかったため、当初計画していた亜急性実験(ARDSモデルを作成し、酸素ナノバブル水を投与した後、ラットを覚醒させ人工呼吸を離脱する。1,2,7日後に肺洗浄を行い、洗浄液中のサイトカインを測定するとともに、肺組織を染色し形態学的変化について評価する)は行わないことを検討している。
今後は、急性実験から得られた知見を論文としてまとめ、発表する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今回用いた実験のプロトコルでは、塩酸の気管内投与により悪化したPaO2、平均動脈圧、の改善はなく、IL-6、TNF-αの増加も抑制されず、今回用いたONBの投与量では、抗炎症作用は確認できなかった。そのため、さらなる酸素ナノバブルの投与量の検討や、投与経路の検討(経静脈投与ではなく、経口的に摂取させる、またはエアロゾルとし、経気管的に吸入させるなど)が今後の研究課題となる。
|
Causes of Carryover |
今年度は、予定していた小動物用人工呼吸器の購入を行わなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、さらなる検討のための実験動物購入、サイトカイン測定キットの購入、論文作成における文献費用などに使用予定である。
|