2020 Fiscal Year Research-status Report
多臓器障害症候群における臓器連関メカニズムの解明と治療法の開発
Project/Area Number |
19K18346
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
早瀬 直樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90836058)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 多臓器不全症候群 / 虚血再灌流モデル / 細胞外ヒストン |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、今回の研究テーマの一つ「急性臓器障害モデルを用いた多臓器障害メカニズムの解明」について2本の学術論文をパブリッシュした。一つ目は、マウス腸管虚血再灌流(ischemia reperfusion, IR)モデルを用いて、遠隔臓器障害発生のメカニズム及びリコンビナント・トロンボモジュリン(recombinant thrombomodulin, rTM)の治療効果を検討したものである。腸管IRではrTMは生存率を改善させ、遠隔臓器の中で特に肝臓の炎症性サイトカイン発現を低下させ、組織学的傷害、血管透過性の改善をもたらした。肝を詳細に調べたところ、他臓器に比較してヒストンが著しく集積し、盛んなNeutrophil extracellular traps (NET)形成が起こっており、rTMはこれらを有意に抑制したことが判明した。上記の研究成果はアメリカ麻酔科学会の学術誌「Anesthesiology」に掲載された。(Anesthesiology. 2019 Oct;131(4):866-882.)。二つ目は、マウス両側腎虚血再灌流モデルを用いて、細胞外ヒストンやNETsを介して惹起される肺への遠隔臓器障害に対してrTMが治療効果を示すか否か検討したものである。腎IRではrTM投与は肺のmyeloperoxidase活性を低下させた。rTMは腎IRでは肺の炎症性サイトカイン発現を低下させ、組織学的傷害、血管透過性の改善をもたらした。さらに、その原因として肺に集積したヒストンやNET形成が、rTMによって有意に抑制されていたことが判明した。上記の研究成果は学術誌「Scientific Reports」に掲載された(Sci Rep. 2020 Jan 14;10(1):289.)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度に学術誌に発表した知見を元に2020年度は「慢性疾患モデルと急性臓器障害モデルを併せた複合的多臓器不全モデルでの検証」を計画したが、COVID-19のパンデミックによる研究室の一時的閉鎖や臨床業務の繁忙により計画を実行に移すことがかなわなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
慢性病態の多臓器連関へ及ぼす影響を評価するため、慢性心不全、慢性腎不全、慢性肝不全を誘導し、これらのモデルに敗血症、急性臓器障害モデルを追加することで複合的多臓器障害モデル、いわゆるtwo-hit modelを作製して原発臓器と遠隔臓器障害に与える影響を先述した複数の視点で評価し、多臓器間を結ぶシグナルがいかに変化するか検討する。 敗血症、急性臓器障害モデル;①マウス敗血症モデル:盲腸結紮穿刺モデル(消化管穿孔)、肺炎モデル(緑膿菌、黄色ブドウ球菌気管内投与)、エンドトキシン静脈内投与モデル(全身性)②マウス急性臓器障害モデル:腸管、肝、腎臓の虚血再灌流障害モデル、両側腎摘 慢性疾患モデル;①心不全:大動脈結紮モデル②腎不全:アデニン誘発腎不全モデル、片側尿管閉塞腎線維化モデル③肝不全:4塩化炭素誘発肝線維化モデル、胆管結紮モデル 上記の知見を踏まえて、単一臓器障害において有効性が報告されている既知の薬剤が、遠隔臓器障害の抑止に有効であるかどうかを検証する。複合的多臓器障害モデルに対して投与して治療効果の有無を検討する。 ①マクロファージ活性化を抑制するリクシアナ(Atherosclerosis, 2015)②細胞外ヒストンを中和するリコンビナント・トロンボモジュリン(PLOS ONE, 2013)、活性化プロテインC(Nat Med, 2009)③HMGB1を標的とした抗HMGB1中和抗体(Kidney int, 2014)④ミトコンドリア障害を防止するDrp1阻害薬mdivi-1(J Am Soc Nephrol, 2015)⑤Reactive oxygen spicesのscavengerとなるN-アセチルシステイン(Cell J, 2015)
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたことについて、COVID-19のパンデミックにより研究が停滞し、実験動物や動物実験試薬といった消耗品の購入が少なかったことによると思われる。今後の研究課題に取り組むべく、多臓器障害モデル作製のため実験動物、新たな実験試薬の購入に充当したいと考えている。また、COVID-19に関わる感染状況次第ではあるが、国内外の学会に出席し、多臓器連関の病態と治療的アプローチに関連する知見を深めるとともに、今回の研究で得られた知見を外部に発信するために、旅費や学術誌への投稿費用に充てたいと考えている。
|