2020 Fiscal Year Annual Research Report
TCRレパトア解析を用いた膠芽腫特異抗原の探索と新規免疫療法への応用
Project/Area Number |
19K18403
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
嵯峨 伊佐子 慶應義塾大学, 医学部, 研究員 (50445219)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | T細胞受容体 / グリオーマ / 脳腫瘍 / 免疫療法 / レパトア解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
膠芽腫は、外科的療法、放射線療法、化学療法、分子標的療法などの集学的治療をもってしても、平均生存期間は15ヵ月に満たない、非常に予後の悪い腫瘍である。決定的な治療法のない膠芽腫において、免疫療法はもっとも期待される治療法のひとつである。 悪性腫瘍に対する免疫療法には、ふたつの異なった方向からのアプローチが必要とされている。ひとつは、悪性腫瘍が免疫系による攻撃を回避する能力を抑制する「ブレーキを外す」治療法である。そしてもうひとつが、悪性腫瘍に対する免疫反応を増強する「アクセルを踏む」治療法である。 多くのがん種において劇的な治療効果を発揮した免疫チェックポイント阻害剤は、前者である。しかし、膠芽腫に対する臨床試験の結果は、必ずしも芳しいものではない。理由としては、膠芽腫が発生する中枢神経系が、免疫寛容な特殊環境であることがあげられる。膠芽腫に対する免疫療法を考えるうえでは、「ブレーキを外す」「アクセルを踏む」両方向の相乗効果による強い免疫併用療法が求められる。 我々は、「アクセルを踏む」免疫療法のひとつとして、がんペプチドワクチンの臨床研究を行った。膠芽腫腫瘍検体を対象とした次世代T細胞受容体(T Cell Receptor : TCR)レパトア解析によって、腫瘍細胞表面に発現する抗原の解析を行い、膠芽腫腫瘍検体でTCRの多様性が低下していることを発見した。さらに、膠芽腫浸潤T細胞のサブセット解析を加え、臨床学的背景との相関を評価したところ、臨床経過の良好な症例にDiversity Indexが低い傾向が示唆されること示した。 これは、複数のがん種での報告と一致し、特殊な免疫環境における脳腫瘍でも、免疫療法が有効たり得る可能性を示している。本研究で解明した膠芽腫の免疫機構の一端は、免疫療法の新たな治療ターゲットおよびバイオマーカーの開発へと繋がる成果である。
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