2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K18660
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
北村 茜 東北大学, 医学系研究科, 技術補佐員 (50736402)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 全胞状奇胎 / 雄核発生 / ゲノムインプリンティング / 悪性転化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、全胞状奇胎(全奇胎)の病態形成におけるインプリント遺伝子の役割を明らかにするため、樹立した全奇胎TS細胞 (TSmole) 株の細胞特性について調べた。 1)TSmole株の細胞増殖:飽和状態前は、TS株とTSmole株の増殖速度は、ほぼ同程度であった。しかし飽和以降、TSmole株の増殖速度はTS株を有意に亢進した。その結果、TSmole株が、細胞接触(CI)による細胞増殖停止に抵抗性を示すことを明らかにした。 2)TSmole株の細胞周期: TSmole株を低密度 (0.5x104 /cm2) と高密度 (10x104 /cm2 )で、2日間培養を行った。低密度培養下では、TS株とTSmole株におけるS期細胞の割合は、有意な差を認めなかった(56.2±0.2%, 62.6 ±3.8%)。一方、高密度培養下では、S期の割合がTSmole株で有意に高値を示した(20.2±0.3%, 40.0±3.7%)。また、高密度培養のTSmole株では、G1、G2期の細胞の割合が共に増加していた。よって、CIによるTSmole株の細胞周期停止は、G1およびG2期で生じていることが示された。 3)インプリント遺伝子P57KIP2の発現と細胞密度:低密度培養下におけるP57KIP2発現細胞の割合は、TS株とTSmole株で有意差を認めなかった。一方、高密度培養下では、TS株で56.1±9.6% と大きく上昇したのに対し、TSmole株では3.2±1.6%であった。qRT-PCRによるmRNAの発現解析では、TS株のP57KIP遺伝子の発現量は高密度培養下で約30倍亢進したが、TSmole株の発現量はほとんど変化を認めなかった。以上より、TSmole株のCIによるp57KIP2発現細胞の増加は、転写レベルでの制御に関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、異常妊娠の一つである全奇胎の生物学的特徴を明らかにすることを目的としている。全奇胎は、雄核発生を原因とし、多数の対立遺伝子間でのヘテロ接合性の消失とゲノムインプリンティングの消失を遺伝的特徴とし、また高率に癌化を導く。そのためゲノムインプリンティングの分子機構や絨毛癌化プロセスを理解する上で、最適の生体マテリアルとなる。初年度は、全胞状奇胎の細胞株を複数株樹立することに成功し、その細胞の遺伝子特性について明らかにした。2年目は、この細胞の細胞増殖能について検討し、細胞特性を明らかにすることが出来た。具体的には 1) TSmole株は、細胞接触(CI)による細胞増殖停止に抵抗性を示すこと 2) CIによるTS株の細胞周期停止は、G1期およびG2期両方で生じていること 3) CIによるp57KIP2発現細胞の増加は転写レベルでの制御が関与することを明らかにした。また、最終年度の計画であるレンチウイルスによる遺伝子導入についても基礎的な検討が行われ、すでに一部研究を進めている。以上により、当初の計画通りに研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、全奇胎でインプリント異常を示す遺伝子P57KIPの機能解析を行う。まず、TSmole株へP57KIP2遺伝子を導入し、細胞特性について検討する。P57KIP遺伝子の発現抑制が、TSmole株の増殖異常に関与するかどうかを明らかにするため、P57KIP2遺伝子をDox依存的に誘導する実験系を用いる。遺伝子導入には、長期間の導入効率と幹細胞の持つ自己複製能を保つためレンチウイルスを用いる。具体的には、1)遺伝子クローニング: P57kip2遺伝子を増幅 レンチウイルスベクタープラスミド(pLVSIN-CMV)にクローニング2)ウイルスのパッケージングを作成 3)力価測定 4)レンチウイルスベクターによる遺伝子導入:RetroNectin法を用い、TSmole細胞に遺伝子導入 5)レスキューの検討を行う。次に、P57KIP2遺伝子 がCIによる増殖停止に関わることを明らかにするため、Cas9とP57KIP2遺伝子に対するgRNAを正常TS細胞に導入し、標的遺伝子のノックアウトを試みる。ゲノム編集には、CRISPR-Cas9技術を利用する。1)ウェブツールを用いて、P57KIP2遺伝子のターゲット配列を設計 2)gRNAのターゲット配列と Scaffold 配列をクローニング 3)p3G-Cas9発現ベクターを作成 4)TS株に、レンチウイルスベクター(3種類)を感染させ、Doxを加え、Cas9の発現を誘導 5)クローン化した細胞を単離 6)細胞からDNAを抽出し、ノックアウトを確認 7)細胞増殖能と細胞周期について正常TS細胞と比較解析する計画である。 以上の研究を進め、全奇胎の生物学的特性についてその全貌を明らかにする。また、本研究成果は国際学術誌へ投稿し、論文発表を行う。
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