2019 Fiscal Year Research-status Report
頸動脈小体腫瘍の発症、進展に関わる遺伝子・蛋白発現の解明
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19K18745
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中村 伸太郎 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30649976)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 頸動脈小体腫瘍 / 遺伝性腫瘍 / SDH遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
頸動脈小体腫瘍(Carotid Body Tumor; 以下CBT)は稀少な遺伝性腫瘍である。その根治法は大量出血・頸動脈損傷に由来する脳梗塞・脳神経障害などのリスクを伴う手術のみである。さらにCBTの約5%を占める転移を伴う症例は根治法が無く予後不良である。手術治療が困難なCBT症例に対する新規治療方針の糸口となる病態解明が待たれており、本研究の成果でその解明に寄与したいと考えている。 【1. 本邦におけるCBTの臨床的特徴の研究報告】 当院は日本頸動脈小体腫瘍研究会(JCBTRG)の構成施設であり、CBTの臨床的特徴について当院を含めた多施設共同による全国調査の報告が為された[Ikeda et al: Oncol Lett. 2018;15:5318-24]。本邦のCBTの両側発生例は10%、家族発症例は12%、転移例は4.7%と、諸外国の既報と同様の臨床的特徴が示されている。しかしCBTを対象とした遺伝的背景を含めた臨床検討は国内外で現在まで論文報告が無く、現在新たな知見を示すべく研究を進めている。 【2. CBT症例を対象とした遺伝学的検査】 当院で診療しているCBT 30例について生殖細胞系列DNAを採取し、その遺伝学的検査を行った結果、11例に病的意義を疑うバリアントを検出した。うち5例はSDHB遺伝子、4例はSDHD遺伝子、3例でSDHA遺伝子に存在した。特にSDHA遺伝子については日本人で初の報告である。我々はこの研究成果を国内外で報告した[人類遺伝学会第63回大会. 2018][AAO-HNSF annual meeting. 2019]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【1. CBTの免疫組織化学を用いたSDHB蛋白発現評価】 SDHの各サブユニットに遺伝子異常が生じるとSDHB蛋白発現が抑制されることが報告されている。そこで遺伝学的検査を行った30症例のうち、腫瘍を切除した14例の病理組織切片を使用して、免疫組織化学にてSDHB蛋白発現を評価した。その結果9例でSDHB発現が低下していた。このうち4例では遺伝学的検査で病的バリアントを検出できなかった。SDHB蛋白発現が遺伝子異常と異なるメカニズム制御されている可能性が示唆された。また残りの5例ではSDHB免疫染色は陽性であり、SDHを介さない腫瘍発生機序が存在する可能性が示された。 【2. CBTにおけるVEGFR発現と腫瘍進展との関係】 CBTは血管に富む腫瘍であり、その進展にVEGF-VEGFR経路の関わる可能性を蛋白レベルにおいて検討した。手術切除した18例の腫瘍組織を免疫組織化学的に評価し、VEGFR2発現例ではMIB-1indexが高く、VEGFR2発現が腫瘍増殖に関わっている可能性が示唆された。一方でVEGFR1については腫瘍体積と関連があるものの、腫瘍増殖に関しては抑制的に働いている可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
当院で摘出手術を行ったCBT症例を対象に、腫瘍由来の体細胞ゲノムDNAを材料にWESを行う。既に行った生殖細胞系列ゲノムのWESの結果と比較し、腫瘍細胞が獲得したDNAバリアントを抽出する。体細胞ゲノムのWESの解析結果はpipeline(Takeru)を用いて、微細なLOHおよび1kb以上の大欠失の検索を試みる計画である。本研究は、本学臨床遺伝学センターとの共同研究である。 我々は上記した9例の新鮮凍結腫瘍検体も保有している。もし従来の体細胞DNAで評価困難な場合、病理診断部の協力の下でマイクロダイセクションにて組織形態学的に腫瘍細胞を選別する。これにより腫瘍細胞の遺伝学的特徴につき、よりノイズの少ない解析結果を得る事が可能である。本邦での症例数を増やすため、JCBTRG参加施設からの症例集積を行う計画で、すでに神戸大学を共同研究機関として登録中である。 今後の計画としては、本学臨床遺伝学センターと共同で、CBT腫瘍組織についてWESによる遺伝子解析を行い、既に行った生殖細胞系列の解析結果と比較する。腫瘍が獲得したDNAバリアントを抽出し、臨床データと比較し腫瘍進展に関わる因子について検討する。 また、RNA-seq,Methylation解析等を行う。症例を蓄積し遺伝子解析結果から治療薬候補を選出する。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していた、リアルタイムPCRで用いるプライマーの購入費が想定より少なく済んだ。また、英語論文についての投稿・校正費は、今年度末までに投稿準備が完了しなかったため、計上しなかった。次年度の使用計画としては、遺伝子データ解析を行うにあたっての大型計算機使用料、その実行補助および資料整理補助としての謝金を計上する。また、英語論文の校正・投稿費に支出予定である。
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