2019 Fiscal Year Research-status Report
In Vivoリプログラミングによる蝸牛神経の機能的再生
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19K18767
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西村 幸司 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (20405765)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダイレクトリプログラミング / 転写因子 / ラセン神経節 / アデノ随伴ウイルスベクター |
Outline of Annual Research Achievements |
アデノ随伴ウイルスをベクターとして、神経分化能を有する転写因子hASCL1, hNEUROD1をin vitroおよびin vivoでマウス内耳に発現させた。アデノ随伴ウイルスの血清型としてはAnc80およびAAV-2を用いた。胎生13日目の蝸牛上皮からin vitroでbeta III-tubulin陽性の神経細胞が誘導された一方で、in vivoにおいては神経誘導された細胞を観察できなかった。In vivoではアデノ随伴ウイルスを後半規管から投与した。In vivoでグリアから神経へのリプログラミングが十分に観察できなかった理由は以下2点が考えられる。1.ラセン神経節の細胞体には遺伝子が導入されたが、周囲のグリア細胞への遺伝子導入が十分ではなかった。2.成体マウスの細胞の可塑性が胎生マウスに比較して低下していたために、リプログラミング効率が低かった。コントロールベクターでは後半規管からのウイルス投与により聴性脳幹反応の閾値は上昇しなかったが、実験群では閾値上昇、すなわち聴覚の低下を認めた。形態的に異常は認めていないが、ラセン神経節で強制発現された転写因子が蝸牛神経の機能に影響を及ぼした可能性が推察された。研究の主目的は蝸牛神経の再生であるが、ウイルスの投与経路が半規管(前庭)であるために前庭の組織解析も行った。ウイルスは前庭(半規管、耳石器)の支持細胞に強く発現していた。また、蝸牛神経の障害を目的として投与したウアバインが前庭神経のサブグループが特異的に障害されることを見いだした。NKA alpha1 subunitを強発現する前庭神経節細胞が特異的にウアバインにより障害されることを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初代表研究者が計画していた実験計画と類似の実験を行い、トランスジェニックマウスを用いてin vivoでラセン神経節のグリア細胞から神経細胞への誘導に成功した報告がなされた(Kempfle et al., 2020; Li et al., 2020)。それを踏まえて、同様の実験の施行を避けるべく、血清型AAV2とAnc80の2種類のウイルスベクターを作製した。力価はPCRで測定した。発現遺伝子は、mCherry_hASCL1とmCherry_hNEUROD1の2種類である。同ベクターで作製したAAV2-mCherry_hASCL1, AAV2-mCherry_hNEUROD1, Anc80-mCherry_hASCL1, Anc80-mCherry_hNEUROD1の4種のウイルスの神経へのリプログラミング能力をIn vitro (胎生13日目マウス蝸牛上皮)で解析したところ、コントロールベクターに比較して有意に非感覚上皮から神経細胞に誘導された。次に、in vivo実験として成体マウスの後半規管から神経障害目的のウアバインと上記神経誘導ベクターの同時投与を行った。4週後に組織を採取して免疫組織化学的解析を行ったが、mCherryを発現しているグリア細胞の存在を検出できなかった。ウアバインにより蝸牛神経を障害されない内耳においてはラセン神経節細胞(神経細胞)にウイルスの発現を認めたために、グリア細胞への感染効率が低かったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画していた実験と類似の実験を行い、in vivoでラセン神経節のグリア細胞から神経細胞への誘導に成功した報告がなされた(Kempfle et al., 2020; Li et al., 2020)。これをふまえて、トランスジェニックマウスを用いた時空間的なグリア細胞における神経誘導遺伝子の発現実験をとりやめ、蝸牛神経が障害された野生型マウス内耳にウイルスベクターを投与して、in vivoリプログラミングを確認する実験を踏襲する方針とした。しかしながら、前年度成体マウスでin vivoリプログラミングが十分に観察できなかったために、若齢マウスの使用をまずは試みる。In vivo実験に用いるマウスの週令を、生後1-3日とし、後半規管から遺伝子導入を行う。AAV8などのグリア細胞に親和性の高い血清型の導入を考慮する。導入遺伝子として、Lin28 (Kempfle et al., 2020)も考慮する。遺伝子の強制発現と同時に神経栄養因子(NT3, BDNF)やリプログラミング促進因子(バルプロ酸、トリコスタチンA)などの同時投与し、リプログラミングの高効率化を試みる。蝸牛神経障害マウスモデルとして従来よりも低用量のウアバインを用い残存している蝸牛神経が再生している神経の軸索伸張に促進的に働くか否かを検証する。
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Causes of Carryover |
今年度購入を予定していたデータ解析コンピュータは、十分なデータの蓄積が無く購入に至らなかった。次年度購入を予定している。
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