2020 Fiscal Year Research-status Report
口腔癌の免疫抑制メカニズムの解析と、ニボルマブ有効症例のスクリーニングへの応用
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19K18959
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Research Institution | Yamanashi Prefectural Hospital Organization |
Principal Investigator |
西井 直人 地方独立行政法人山梨県立病院機構山梨県立中央病院(がんセンター局ゲノム解析センター), ゲノム解析センター, 研究員 (40836285)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | PD-1阻害抗体 / ニボルマブ / PD-L1 / 免疫プロファイル / 遺伝子変異プロファイル / バイオマーカー / 口腔癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度に購入した抗体を用いて、山梨県立中央病院口腔外科でPD-1阻害抗体:ニボルマブを投与した口腔癌7例(治療奏効群2例、非奏効群5例)の免疫プロファイルを解析した。まず、PD-1のリガンドであり、高発現であるほど治療が奏効しやすいと報告されているPD-L1の発現を解析したところ、多くの症例ではPD-L1発現率と治療効果に相関がみられたが、治療奏効群1例についてはPD-L1が全く発現していないことが明らかとなった。PD-L1陰性ニボルマブ奏効症例を詳細に解析すると、癌細胞を攻撃するCD8T細胞の浸潤もわずかであり、ニボルマブのターゲットとなるPD-1の発現も低く、免疫応答がほとんど起こっていない「Cold tumor」であることが示唆された。一方、もう1例の治療奏効症例はCD8T細胞の浸潤が豊富で、PD-1,PD-L1も高発現で有り、「Hot tumor」であることが示唆された。他、制御性T細胞、好中球、抑制型マクロファージの浸潤についても解析したが、治療効果との相関を認めなかった。少数例の解析ではあるが、多岐にわたる免疫細胞の浸潤とそのバランスを解析した研究は少ない。本研究の症例数を増やすことで、口腔癌特有の免疫抑制機構や免疫プロファイルとニボルマブ治療との関係性が明らかになる可能性がある。 さらに、PD-L1陰性で治療が奏効した1例が見いだされたことは、免疫プロファルのみをバイオマーカーとした場合に、本来は治療効果のある患者に治療を適応できなくなる可能性があることを示唆している。今後は、遺伝子変異プロファイルなど、複数バイオマーカーを検討する必要性があると考えられた。 また、口腔癌の遺伝子変異とニボルマブ治療効果を調べる過程で、口腔多発癌における臨床診断と遺伝子変異プロファイルが乖離しているという興味深い結果を得たため、論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、口腔癌に浸潤する免疫細胞を多重免疫染色により同定し、東京医科歯科大学分子免疫学分野のイメージング機器「マントラ」を使用して定量解析する計画を立案していた。研究者の山梨県立中央病院への異動、および新型コロナウイルスにより東京への頻繁な移動が困難になったことから、山梨県立中央病院で施行可能な免疫染色・解析法に変更して2年間研究を行った。7例と少数ではあるものの、ニボルマブ投与口腔癌症例における免疫プロファイルを詳細に解析し、治療効果との関連を検討した。PD-1のリガンドであるPD-L1の発現が高いほど治療効果が高いと考えられているが、PD-L1陰性でニボルマブが著効した貴重な症例を発見した。PD-L1が陽性にも関わらずニボルマブが奏効しない症例については、PD-L1以外の免疫抑制経路が深く関わっていることが報告されているが、PD-L1陰性にも関わらずニボルマブが奏効した症例の報告は少なく、メカニズムも分かっていない。そのため、免疫プロファイル以外のバイオマーカーである「腫瘍遺伝子変異」および「血液中の好中球リンパ球比(NLR)」を検討したところ、NLRのみが治療効果を反映しており、NLRの推移が全例において治療効果を反映していることを見いだした。口腔癌において同様の報告はなく、当初の計画では想定しなかった貴重な1例から興味深い発見をすることができた。現在、ニボルマブ投与例における免疫プロファイル、腫瘍遺伝子変異、NLRの検討結果について、論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年に研究者は東京医科歯科大学に再び異動となったため、当初の計画通り、舌癌20症例について多重免疫染色を行い、マントラを用いた定量解析により、免疫プロファイルの評価系を構築する。その後、ニボルマブ投与症例において、免疫プロファイルと治療効果の相関を検討し、ニボルマブ有効症例スクリーニング法確立を目指す。ニボルマブ投与症例は、東京医科歯科大学だけでは症例数が限定されるため、山梨県立中央病院口腔外科の症例も合わせて解析する予定である。 一方、山梨県立中央病院での研究において、PD-L1陰性ニボルマブ有効症例が見いだされたが、そのメカニズムとしては①PD-1のもう1つのリガンドであるPD-L2が免疫抑制を担っている②腫瘍の不均一性により、解析した部位のみPD-L1が陰性であったが、他部位は陽性で有り、真のPD-L1発現を測定できなかった③PD-L1発現は経時的に変化するため、組織採取したタイミングではPD-L1陰性であったが、その後PD-L1が陽性になった、という3つの可能性が考えられる。①については、PD-L1だけでなくPD-L2発現も解析することで、PD-1/PD-L2経路の免疫抑制への関与を新たに検討することとした。②③については免疫プロファイル解析だけでは解決が困難である。そのため、免疫プロファイル以外の腫瘍遺伝子変異や、経時的な測定が可能な血液サンプル由来のバイオマーカーも合わせて検討する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、東京医科歯科大学との共同研究が進まなかったこと、および海外の学会に参加できなかったことにより、助成金の使用額が想定を下回ることとなった。今後は、東京医科歯科大学を研究基盤とし、多数例の免疫プロファイルを解析すること、および免疫プロファイル以外に、遺伝子変異プロファイルやTCRレパトア解析を行うことに助成金を使用する予定である。
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