2019 Fiscal Year Research-status Report
健口マイクロバイオームをモデル化する:オミックスと嫌気培養法による相乗解析
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19K18975
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Research Institution | Ohu University |
Principal Investigator |
眞島 いづみ 奥羽大学, 歯学部, 助教 (60770782)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 健口 / 16S rRNAメタゲノム / 唾液マイクロバイオーム / 嫌気培養 / Veillonella属細菌 / 新菌種 / 代謝経路解析 / メタボライト |
Outline of Annual Research Achievements |
健口マイクロバイオームのモデル化を目指すにあたり、日本を含むアジア圏の国々において、「健口」な被験者の選定と唾液サンプルの採取を行った。「健口」な被験者は、ユニバーサルな全身状態の健康基準をクリアし、かつ口腔診査の結果をもとに、年齢層毎に選別を行った。サンプリングの完了したコホートの唾液から全DNAを抽出し、ライブラリー調整後、次世代シーケンサーによる16S rRNA遺伝子メタゲノム解析を進めた。その結果、優勢細菌群として偏性嫌気性菌であるVeillonella属細菌が同定された。 しかし、16S rRNA遺伝子はその配列の類似度が同属菌種間で高く、特に本属細菌においては、菌種の判別が困難であることから、メタゲノム解析のみでは菌種レベルの解析が困難であった。そこで本研究では、同唾液サンプルを嫌気条件下で処理し、Veillonella属細菌を分離培養後、rpoB遺伝子を利用した菌種特異的PCR法を行うことで、本属細菌の分布と出現頻度を菌種レベルで明らかにした。嫌気培養法を併用することで、より詳細で正確な健口マイクロバイオーム優勢細菌群の情報を得ることができた。さらにその研究過程において本属細菌の新菌種候補を複数株分離することに成功した。 また代謝経路解析の先行試験として、本マイクロバイオーム解析において優勢菌群として同定されたVeillonella属細菌の複数菌種を用い、その基質別の代謝(消費)能を、終末代謝産物となる培養上清中の各種有機酸を定性的かつ定量的に測定することで解析した。その結果、これまで本属細菌には報告されていない糖代謝現象が、グルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)を基質とした際に確認された。本結果は、今後の詳細な代謝経路解析に向けて有益な基礎データとなるとともに、健口マイクロバイオーム構成細菌間のメタボライトを介した相互作用の理解に大きく関わると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部の唾液マイクロバイオーム解析は予想よりも早期に進展し、今後解析すべき優勢菌群を同定できたが、他の複数コホートの唾液サンプリングを含めたマイクロバイオーム解析は未完了であり、今後も継続していく予定である。 また本研究過程において、優勢菌群、即ちVeillonella属細菌の新菌種候補株が分離された。新菌種も含めた本属細菌の代謝経路解析を行うことで、より詳細なメタボライトの検出及び同定が可能となり、本研究の目的である「健口マイクロバイオームのモデル化」がさらに加速すると考えられることから、現在はこれら未同定株をVeillonella属新菌種として確立させるための系統解析、生化学性状解析を進めている。 さらに先行研究により明らかになったVeillonella属細菌のグルコースとフルクトースの糖代謝能に関して、その代謝経路解析を進めるにあたり、両者の本属細菌に対する増殖への影響を、新菌種提唱予定株を含めた全菌種で確認中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は16S rRNAメタゲノム解析による唾液マイクロバイオーム解析の継続と、健口マイクロバイオーム構成優勢菌群として現時点で判明しているVeillonella属細菌の新菌種の提唱に加え、本属細菌の代謝経路解析とメタボライトの同定を行う。具体的には、全ゲノム、もしくはドラフトゲノム解析を行い、得られたCDS情報に対して、KEGGデータベースを参照し、該当菌種が保持する代謝系を特定する。また、基質コントロールにより該当保持経路が実際に機能しているかを、各菌種の培養上清中の代謝産物解析、またメタボローム解析による中間代謝産物を同定することで検証し、同時にメタボライト情報として取得する。 さらに、被検者唾液中における優勢メタボライトをLC/MS, GC/MSを用いて同定とするとともに、Veillonella属細菌を中心とした優勢菌群由来のメタボライト情報を合わせ、相互解析を行う。また、Veillonella属細菌のメタボライト情報に関しては、上記の結果に加え、口腔細菌が口腔内において、実際にはバイオフィルムを形成して生存していることを考慮し、本属細菌種のバイオフィルムを嫌気条件下のin vitroで形成させた際のメタボライト産生能も解析する。また、実際にいずれの優勢菌種が有意なバイオフィルム形成能を持ち、いずれのメタボライトを産生しているかを関連付け、多変量解析を通して評価後、16S rRNAメタゲノム解析によるマイクロバイオーム解析結果と合わせて、研究目的の達成を目指す。
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Causes of Carryover |
2019年度に計画していた健口マイクロバイオーム解析が予想より早期に進展したことで、次年度に予定していた代謝経路解析の一部を同年度内に進めることとなった。そのため、次年度交付金の前倒し申請を行ったが、予定していた解析処理サンプル数に変更が生じ、前倒し申請額よりも少額で計上することになったため、次年度使用額が生じた。 生じた次年度使用額に関しては、従来の研究計画に沿い、健口マイクロバイオーム優勢細菌群における代謝経路の同定に必要な消耗品の購入、及び解析のために使用する予定である。
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