2019 Fiscal Year Research-status Report
間葉系幹細胞集塊のメカノトランスダクション制御による骨様組織の創生と再生医療応用
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19K19030
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小松 奈央 (正木奈央) 広島大学, 病院(歯), 歯科診療医 (90825316)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 間葉系幹細胞集塊 / C-MSCs / メカノトランスダクション / YAP/TAZ / 立体骨様組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らはこれまでに、間葉系幹細胞(MSCs)と細胞自身が産生する細胞外基質(ECM)を応用し、直径1mmほどの間葉系幹細胞集塊Clumps of MSCs/ECM complexes(C-MSCs)を樹立していた。C-MSCsは人工材料を用いることなく実質欠損部に移植可能で、組織再生を誘導する。このC-MSCsの臨床応用するために、その細胞性質を分子レベルで理解する必要がある。 そこで研究代表者は、従来の二次元培養とは異なり、C-MSCsは3次元的に浮遊状態で培養されることに注目し、MSCsの分化制御に関わるとされるYAP/TAZメカノシグナルに着目して基礎研究を行ってきた。その結果、浮遊状態にあることで場の硬さを感知出来ず、YAP/TAZシグナルが劇的に低下し、骨分化抑制がかかることをすでに見出していた。この知見を応用し、場の硬さをコントロールすることができれば、C-MSCsからex vivoで骨細胞・骨芽細胞・骨基質からなる骨様組織を作製出来る可能性に着想し、研究を開始した。 その結果、C-MSCsを硬さ調整可能な多糖ベースのハイドロゲルに包埋培養し、骨分化誘導を施したところ、YAP/TAZ活性が著しく上昇することを見出した。更に、ゲル包埋培養を継続すると、C-MSCsからミネラルの沈着した骨基質と、内部でネットワーク形成をする骨細胞からなる立体骨様組織を作製出来ることを見出した。 上記成果を特許出願した。現在は論文投稿のために、YAP/TAZシグナルと骨細胞分化の関連を示す基礎データを蓄積中である。さらに、この立体骨様組織を用いた骨再生療法開発を目指したin vivo実験を計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請書の作業仮説は、C-MSCsに硬さ制御したゲル包埋培養を組み合わせることで、YAP/TAZメカノトランスダクションを活性化させ、骨再生医療に資する立体骨様組織を作製出来るかということである。 研究初年度において、C-MSCsを硬さ調整したハイドロゲルに包埋培養し、骨分化誘導を施したところ、YAP/TAZ活性が上昇し、ミネラルの沈着した骨基質・骨芽細胞・骨細胞からなる立体骨様組織を作製することに成功した。これは世界初の培養法であり、特許出願をするに至った。今後は、より基礎的な分子メカニズムを明らかにすること、動物実験による骨再生効果を示すことに着手しており、研究進捗状況としては概ね順調といえる。 さらに、本研究遂行中に研究代表者らは、C-MSCsの作製をすべて異種動物タンパク不含・血清不含のゼノフリー条件で行うことに成功し、さらにその移植による骨再生効果およびその再生メカニズムを動物実験レベルで示した。これらの成果をInt J Mol Sciに論文発表した。これはC-MSCsからの立体骨様組織誘導のプロトコールをゼノフリー化出来ることを示している。つまり、ロット間の性質にばらつきのある血清を使用しないことで、より再現性の高いC-MSCsからの立体骨様組織誘導が樹立出来る可能性がある。 また、浮遊培養におけるC-MSCsでは、YAP/TAZメカノシグナル活性が低下するのみならず、p38/JNK-C-fosシグナル活性が向上し、その結果COX2発現が上昇し細胞保護作用を発揮していることを明らかにした。この成果は現在論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度である今年は、これまでの研究成果を論文発表することを目指す。現在までに、C-MSCsをゲル包埋培養すると、YAP/TAZメカノシグナルが向上すること、骨細胞・骨芽細胞・骨基質からなる立体骨様組織が得られることが示されている。そこで、この向上したYAP/TAZ活性と立体骨様組織形成の関係を明らかにする。とくにYAP/TAZ siRNAsや、メカノトランスダクションに関わる分子群(Integrin, ROCK, F-actin等)に対するインヒビターをもちいた阻害実験を行う。 また、得られた立体骨様組織の骨再生効果を検証するin vivo実験を開始する。ヌードラット頭蓋冠欠損モデルにC-MSCsから作製した立体骨様組織を移植し、骨再生量をマイクロCT及び組織学的計測によって経時的に評価する。さらに、ヒト細胞の分布をヒト特異Vimentin抗体で、ヒト骨基質関連タンパク質の発現をヒト特異COL1・OPN・OC抗体で多重染色し、移植細胞と宿主細胞の骨再生過程における動態を詳細に評価する。 上記のin vitro/in vivoのデータがまとまり次第、論文投稿する。さらに、臨床応用を目指し、ビーグル犬を用いた大動物を用いた移植実験にも着手する。
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Causes of Carryover |
研究開始当初は、C-MSCsからの立体骨様組織誘導のためのゲル硬さや培地組成等の条件検討が複雑になり、培養試薬が高額になると予想されていた。しかし、立体骨様組織誘導の予備実験が予想した以上に順調に遂行されたため、ハイドロゲルや骨分化誘導培地にかかわる試薬代が低額に抑えられた。 また、得られた立体骨様組織のミネラル沈着度をラマンイメージング受託によって評価予定であったが、マイクロCTを用いた独自解析によって十分な基礎データが得られたことも研究初年度にかかる費用を低額に抑えることにつながった。 研究最終年度の今年は、さらに分子メカニズムの解析として各種阻害実験を行う。特にsiRNAやインヒビターを用いたin vitro実験は、研究初年度よりも経費が必要となる。さらに、動物実験による骨再生効果の検証をスムーズにすすめるためにも、十分な予算が必要となる。また論文出版費・特許PCT出願・学会発表等も研究初年度より高額となる可能性が高い。したがって、研究初年度からの繰越予算をこれらプロジェクトの遂行に当てることで本研究の完遂を目指す。
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