2019 Fiscal Year Research-status Report
口腔がんに対する腫瘍免疫を惹起できる新しい腫瘍溶解アデノウイルスの開発
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19K19184
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鄭 朱蒙パトリック 北海道大学, 歯学研究院, 学術研究員 (30801328)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 腫瘍溶解アデノウイルス / ARE-mRNA / GM-CSF |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍溶解ウイルス療法とは、正常細胞では感染せず、あるいは感染しても増殖せず、がん細胞のみに感染し増殖するようにウイルスの遺伝子を改変し、最終的にはがん細胞を死滅させる治療方法である。本研究ではアデノウイルスをベースとした腫瘍溶解アデノウイルスにGM-CSF遺伝子を挿入し、腫瘍免疫を惹起できる新たな腫瘍溶解ウイルスの開発のための基礎検討をすることを目的としている。GM-CSFには免疫細胞の一種である樹状細胞を活性化する作用がある。したがって、この腫瘍溶解アデノウイルスはがん細胞を死滅させ、さらに、発現したGM-CSによって活性化された樹状細胞がT細胞を活性化し、がんに対して免疫を得ることが期待されるものである。 平成31年度は、申請者らが開発した腫瘍溶解アデノウイルスAd+AUとGM-CSFの併用効果について検討した。このウイルスはAU-rich element(ARE)を持つmRNAの核外輸送及び安定化を応用しており、ARE-mRNAが安定化しているがん細胞では増殖できる。ARE-mRNAはAREに結合するRNA結合タンパクHuRにより核外輸送されるため、GM-CSF処理によりHuRが核輸送され、Ad+AUの複製が活性化されるか検討した。 ヒト子宮頸がん細胞であるHeLa細胞を及び口腔がん細胞HSC3やSASを使った実験により、GM-CSF単独処理ではHeLa細胞ではHuRの核外輸送がわずかではあるが認められた。しかしながら他の細胞ではHuRの核外輸送に著変が無いことが示唆された。 今後の展開としてはAd+AUとGM-CSFの併用効果、およびAd+AUによるGM-CSFのARE-mRNAの安定化機構に焦点を当てて検討する。ウイルスの生産効率について他の変異ウイルスと比較しそのAd+AUの優位性を確認することでAd+AUにGM-CSFを挿入することが可能となるため、これらの確認は重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
GM-CSF単独処理によるHuRの変動が当初の想定より認められなかったため、研究デザインの変更を検討するに至った。それに伴い当初予定していたウイルス力価測定値の比較検討にも遅れが発生した。また、申請者が所属機関を変更することに伴う環境の変遷の準備により研究遂行に支障をきたしたため進捗状況に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまではGM-CSF単独処理によるARE-mRNA及びHuRの変動に着目していたが、腫瘍溶解アデノウイルスAd+AUによるウイルス生産効率の比較及び、Ad+AUとGM-CSFの併用効果をリアルタイムPCRにて比較検討する方針を進める。さらに、併用後のアデノウイルス各種遺伝子の発現の増減を確認し、特にアデノウイルスの初期遺伝子であるE1Aの発現が増強されることを確認する。これらが確認された後、Ad+AUにGM-CSFを挿入する。挿入位置は当初の予定通りとし変更はない。これらを所属する大学院生と共同で行い、進捗の遅れについて挽回することを目指す。
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Causes of Carryover |
GM-CSF処理によるHuRタンパク質の変動に着目した実験系を組み追試を繰り返したため、mRNAに関する実験計画に遅れが生じた。このため、ARE-mRNAの核外輸送と安定化に関する解析を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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