2022 Fiscal Year Research-status Report
顎骨壊死に対するアドレナリン受容体アゴニスト投与による治療効果の検討
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19K19188
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
山田 峻之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (10826829)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ビスホスホネート製剤関連顎骨壊死 / PTH / アドレナリンβ2アゴニスト / アルカリホスファターゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
2003年にビスホスホネート系製剤(BPs)の注射製剤の重大な有害事象の一つとしてBP製剤関連顎骨壊死(BRONJ)をMarxが報告して以降、抗RANKLモノクローナル抗体、ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体など多種多様な薬剤からも顎骨壊死が発症する報告が散見されるようになった。顎骨壊死に対する治療方針は、手術療法に良好な結果を認める報告が以前より多く見られるようになってはいるが、顎骨壊死患者の多くが高齢者であり、手術範囲や適応基準などまだ課題が残っている。 また、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)が骨粗懸症治療薬として使用されており、PTH使用者の顎骨壊死が改善されたという報告も散見される。PTHが顎骨壊死手術適応外の方にも使用できる可能性はあるが、PTHの適応・使用にも制限があり、PTHに代わる新たな代替薬の開発が望ましい。 PTHと同様のシグナル伝達経路を持つ製剤の一つにアドレナリンβ2受容体アゴニストであるイソプロテレノール(ISO)などが知られている。ISOを用いた骨芽細胞分化の研究は数多く報告されており、マウス骨芽細胞様MC3T3-E1細胞へのISO単独投与では骨芽細胞の骨細胞への分化を抑制する。これは、MC3T3-E1細胞のBMP誘導性アルカリホスファターゼ(Alp)の発現抑制により確認されている。一方、MC3T3-E1細胞へのISOの間欠的投与ではAlpの発現は抑制されない。このように、間欠的投与によって作用が逆転する現象が、ISO以外では、in vitroにおいてPTHが報告されている。in vivoにおけるISOの間欠的投与の骨組織へ対する作用はまだ知られていない。そこで本研究ではマウス顎骨壊死モデルやマウス大腿神経切除モデルを作成し、アドレナリンβ2受容体アゴニストの間欠的投与による顎骨壊死の治療効果、他の骨への影響を明らかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
マウス顎骨壊死モデルを作成するにあたって、マウス上顎智歯抜歯モデルを作成し、実験系のプロトコール作成を計画したが、マウス顎骨壊死モデルの作成が不安定であるため、大腿神経切除手術を行い、マウス後肢に負荷をかけないモデルを作成し、代替プロトコールを検討した。 これまで、尾部懸垂モデルが骨量低下を引き起こすモデルとして使用されていたが、頭部が心臓よりも低い位置で維持されるため、循環器系への影響が生じてしまうことが問題とされていた。さらに懸垂中はマウス個体が自由に動くことができず、ストレスによる交感神経系への影響も懸念される。そこで、手術のストレスは不可避だが、術後の生体への負担が少ないと思われる大腿神経切除モデルを選択することとした。 顎骨壊死を引き起こす患者は骨粗鬆症を患っていることが多い。骨吸収抑制剤の多くは、破骨細胞の抑制作用で、骨免疫能の低下などを引き起こし、感染を契機に顎骨壊死を引き起こしている。骨粗鬆症により骨量低下した生体に対し、骨量増加を促す薬剤があれば、破骨細胞の作用に影響を与えていると考えられ、神経切除手術モデルを用いた実験系でも、再現可能と考えられる。 現在、大腿骨神経の神経切除モデルを作成し、体重や生活に支障をきたすことなく、神経切除側の大腿の筋力低下を確認した。しかし、神経除去後に、足の引きずりが一定ではなく、個体によっては他の筋肉などで通常のような歩き方まで回復する個体も認められた。非切除側の筋力の変化は認められなかったが、運動量は増加していると考えられ、実験系の手技以外の要因も考慮する必要が生じている。また、毎日の薬剤投与は腹部への皮下注射を行っているが、手技に対するストレスも強く、同居個体への攻撃、手術創部への自傷などが生じた。一定の条件にそろえることが困難であり、さらなる検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は前述の問題点に対して、モデルとしての妥当性を再検討する必要がある。 まずは大腿神経切除術の手術手技を検討する必要がある。大腿神経切除術により機能低下が適切に引き起こされ、適切な部位に作用があったかどうかを評価する方針である。神経を切断するのみの場合、侵襲は少ないが術後の機能回復が早期に行われる印象があったため、ランドマークを決めて神経の区域切除を行い、術後の機能評価を行った。個体によっては正常側と変化がない程度まで歩行を取り戻すケースもあり、代償的な機能獲得の可能性も考えられた。術後の血流などを確認する方法は困難なため、手術手技で大腿神経切除時に血管を剥離し、術中に出血がなかったものを対象にしようとした。すると、血管の剥離は非常に繊細で、剥離中に大腿動脈からの出血をきたすケースが頻繁に生じた。止血は可能で、死に至ることはまれだが、対照群を増やすには、血流の影響の解釈を検討中である。 手術後の管理においても、創部をひたすら保護しながら落ち着きなく動く個体がいる一方で、長時間安静を保つ個体など様々であった。術後の様子をモニターをした際の評価方法を検討する方針である。個体によっては自傷や他個体への攻撃などもあるため、行動に対して制限を付ける方法なども検討中である。 評価法に関しても、さらなる検討が必要である。筋力の低下を比較する場合、骨と異なり明確な境界が分かりづらいため、一定の手術手技による評価検体の摘出方法を定める必要もある。これらの手術術式も繰り返し行い、実験者の手技の熟達も必須である。これまでの報告では神経切除モデルの使用は散見されるが、その方法の妥当性や効果を評価して、方法を確立している報告は渉猟し得る限りは存在しない。適切な評価法を他分野の論文からも参考にして実験系のプロトコールを作成し直す方針である。
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Causes of Carryover |
現在の研究におけるプロトコール作成にて、前述したようにプロトコールの変更や手術・実験手技、術後管理、個体差など問題でいくつかの検討項目が再度生じた。そのため、現在はその検討項目一つ一つの検証中でもあり、まずは先行報告の確認と、実験系の検証・確立などを優先しているため、実験実施などが予定通りに生じていないことが、次年度使用額が生じた理由の一つとして挙げられる。 また、現在遠方地へ出向中で、勤務状況が1人常勤のため、実験の計画が予定通り進みにくいことも挙げられる。動物実験となると、集中して通えるような時間の確保が必要となるが、現状困難な状況が続いている。また、管理上の問題も生じているため、進みにくい原因の一つとなっている。 前述の検討項目は全身の要因も大きく、他要因との相互作用なども関連していると考えられる。今後は他分野での類似の先行報告なども検索する必要があり、専門外のことに関しても積極的に調査する予定である。以上のような要因を検討するにも情報収集に時間がかかると思われるが、適切な実験系を構築するためのアイディアや方法を実験系に組み込むことで、課題を乗り越えられるかどうかを検討する方針である。 前述の検討項目に、実証可能な実験や参考文献で確認できる結果を併せて、実験計画を作成し、実行する方針である。
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