2020 Fiscal Year Research-status Report
間葉系幹細胞の免疫制御機構を応用した新たな難治性顎骨壊死根治療法樹立の試み
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19K19242
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
小松 祐子 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (90781625)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ビスホスホネート / BRONJ / 間葉系幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ビスホスホネート(BP)関連顎骨壊死(BRONJ)の根治的な治療法は確立されておらず、未だ検討の余地が残されている。しかし近年、BRONJの病理組織学的症状である炎症の遷延化が注目されている。現在、難治性ONJ発症のリスクファクターについて複数の可能性が上がるなか、発症原因の特定には至っていないが、動物実験のレベルではインフラマソームの活性化による炎症の遷延化がBRONJの発症に関わるとの報告や、BPは患部のinterleukin (IL)-17の発現を介して炎症性マクロファージ(M1-MΦ)の局所への動員と抗炎症性マクロファージ(M2-MΦ)の局所からの排除を促すが、M2-MΦの移植により顎骨壊死(ONJ)の症状が緩解すると報告があることから、炎症の改善が難治性ONJの治療に極めて重要との予測がなされている。 一方、間葉系幹細胞 (MSC)は、組織再生能力を有する体性幹細胞(臓器由来の幹細胞)として再生医療への応用が期待されている細胞であるが、近年その免疫機能調整能力(抗炎症性機能)がとくに注目されている。MSCは、抗炎症性サイトカインの分泌作用や抗炎症性細胞M2-MΦならびに制御性T細胞(Treg)の局所への動員促進作用を介して局所の炎症を緩解することが知られており、移植片対宿主病 (GVHD)、I 型糖尿病あるいは全身性エリトマトーデス(SLE)などの患者への移植による臨床応用が試みられている。しかし、顎骨骨髄内に生息するMSCが、難治性ONJ発症の際にどのような影響を受けるのか、あるいは難治性ONJ患部へのMSC移植の有用性について調査した例は報告がない。本研究では、このMSCを利用した新たな細胞治療によるBRONJ根治療法の樹立のための分子基盤を確立したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
最近、癌微小環境では、癌細胞が周囲の間葉系幹細胞(MSC)に働きかけ、炎症性細胞(M1-MΦ)を抗炎症性細胞(M2-MΦ)に分極化させることにより、癌細胞の免疫的排除を逃れるとの報告がなされた。当初の方針では、BRONJの発症にM1-MΦがどのように関わり、MSC、M2-MΦあるいはTregがその緩解にどのように関わるのかを分子レベルで解明し、MSCを中心とした抗炎症作用を応用したBRONJ根治療法の樹立を目指すこととしていた。現在、この当初の実験系に加えて、口腔癌細胞がどのように炎症性細胞(M1-MΦ)や抗炎症性細胞(MSC)に働きかけて、M1-MΦからM2-MΦへの分極化や局所へのM2-MΦの動員を促すのかについても分子レベルでの解明を試みる研究を開始した。この新たな試みが、MSCを中心とした抗炎症作用発現メカニズムの解明の一助となることを期待しているところである。このため、ONJモデルマウスにおいて、組織修復性と抗炎症性を併せ持つMSCがどのような機能障害を受けるのかについて、そのターゲット分子のピックアップを進めるべきところ、in vivo実験の条件設定のためのin vitro実験を追加で実施している。なお、薬剤関連性顎骨壊死の病因を臨床の面から探索するための研究としては、順調に結果をまとめ、学会発表や論文発表に向けた準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
① BPの投与により作製されたONJモデルマウスにおいて、組織修復性と抗炎症性を併せ持つMSCがどのような機能障害を受けるのかについて明らかにする:BPの投与によりONJ発症モデルマウスを作製し、各薬剤投与による患部(薬剤投与後の抜歯窩周囲の遷延性炎症の存在と腐骨形成)への影響について免疫組織化学的に調査する。とくに、抗炎症性作用を示すMSCの患部への集積(ホーミング)状況、また、MSCにより動員されるとの報告がある抗炎症性作用を有する免疫細胞であるM2-MΦやTregのホーミング状況をONJ誘導薬剤投与群と薬剤未投与群の抜歯窩と病理組織学的ならびに免疫組織化学的に比較することにより明らかとする。 ② BPの投与が、抜歯窩内肉芽組織中に存在するMSC、M2-MΦならびにTregに与える影響について明らかにする:強蛍光発現トランスジェニックマウスよりMSC、M2-MΦ前駆細胞あるいはTreg前駆細胞を採取する。BPをマウスに投与した後に大臼歯の抜歯を行うと共に、各抗炎症性蛍光発現細胞を各ONJモデルマウスの腹腔あるいは尾静脈に移植し、経血管的に抜歯窩あるいは抜歯窩にホーミングさせる。その後、ONJモデルマウスの抜歯窩組織を採取し、その組織切片を作製後、マクロダイセクション装置を利用して先に移植した抗炎症性細胞としてのMSC、M2-MΦならびにTregをその組織切片上からそれぞれ切離する。その後、それぞれの細胞からmRNAを抽出してから、DNAアレイやmiRNAアレイを用いた網羅的遺伝子発現調査を実施し、BPにより各抗炎症性細胞が受ける機能障害(遺伝子発現変化)の全容を明らかとする。
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Research Products
(9 results)