2021 Fiscal Year Research-status Report
顎関節滑膜細胞の破骨細胞誘導機構に着目した新たな変形性顎関節症治療戦略
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19K19277
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
横田 聖司 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (50802401)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 変形性顎関節症 / 滑膜細胞 / ダメージ関連分子パターン / プリン受容体 / ERK |
Outline of Annual Research Achievements |
顎関節由来線維芽細胞様滑膜細胞株fibroblast-like synoviocytes (FLS) (Int. J. Mol. Med., 39:799-808, 2017) におけるダメージ関連分子パターンdamage-associated molecular pattern (DAMPs)に対する受容体の発現をRT-qPCR法により明らかとした。その結果、FLS細胞において受容体P2Y13が有意に発現が上昇し、そのアゴニストであるadenosine 5’-diphosphate (ADP)を作用させたところケモカインの一種であるmonocyte chemotactic protein 1 (MCP-1)/ C-C motif chemokine ligand 2 (CCL2) のmRNAレベルでの発現がadenosine 5’-triphosphate (ATP)に比べ有意に上昇した。更に、P2Y13のアンタゴニストであるMRS2211をADPと併用するとFLS細胞においてADPの作用で上昇したMCP-1/CCL2のmRNAレベルでの発現が有意に抑制された。 また、ADPの作用によりMAPK経路の一つであるextracellular signal-regulated kinase (ERK)のリン酸化が増強し、mitogen-activated protein kinase/ERK kinase (MEK) のインヒビターであるU0126を併用するとそのリン酸化は抑制された。 以上の結果より、FLS細胞においてADPは受容体P2Y13に結合しMEK/ERK経路を介することによりMCP-1/CCL2の発現を増強し、炎症を増悪させている可能性があることが示唆された。今後はmRNAレベルで増強されたMCP-1/CCL2がタンパク質レベルで発現しているか調査を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変形性顎関節症の発症機序の原因として注目されているDAMPsの受容体であるP2Y2、P2Y12、P2Y13がFLS細胞において発現していることを報告した(Dent. J. Iwate. Med. Uni., 45:46-57, 2020)。 FLS細胞にDAMPsであるATP、ADP、UTPを作用させるとケモカインMCP-1/CCL2のmRNAレベルでの発現量はUTPでは変化せず、ADPで刺激した場合のほうがATPで刺激した場合より有意に上昇していることを確認した。さらにP2Y1のアンタゴニストであるMRS2179、P2Y12のアンタゴニストであるAR-C66096、P2Y13のアンタゴニストであるMRS2211をADPと併用させるとMRS2211を併用させた場合のみMCP-1/CCL2のmRNAレベルでの発現量が有意に抑制されることも確認した。 またFLS細胞にADPを作用させるとERKシグナル伝達経路のタンパク質レベルでのリン酸化が増強され、そのインヒビターであるU0126を併用するとERKのリン酸化が有意に抑制されることも確認した。他のMAPK経路であるc-Jun N-terminal kinase (JNK)ではリン酸化は確認できず p38 MAPKにおいては有意差が得られなかった。さらにADPとU0126を併用するとADPで有意に上昇したMCP-1/CCL2のmRNAレベルでの発現量が有意に抑制することも確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
変形性顎関節症は、滑膜組織の慢性炎症を伴う軟骨の変性、下顎頭の骨の変形や顎関節の線維症など様々な症状を引き起こし、その治療法はスプリントやステロイド性抗炎症薬の投与など対症療法が主体となっている。これまで我々はマクロファージなどの炎症性細胞を遊走するケモカインの発現を増強するとされているDAMPsの一つであるADPをFLS細胞に作用させるとMCP-1/CCL2の発現が有意に上昇し、さらにDAMPsの受容体の一つであるP2Y13のアンタゴニストであるMRS2211を併用するとMCP-1/CCL2の発現量が有意に抑制されることも確認している。さらにはADPがP2Y13に結合しERKシグナル伝達経路を介することでMCP-1/CCL2の発現量が上昇することも確認している。 しかし、ケモカインMCP-1/CCL2が実際に細胞外に分泌されマクロファージの遊走能を上昇させているのかは不明のままであり、マクロファージが骨の変形や吸収を行うために破骨細胞へ分化・活性化する際のM-CSFをはじめとする液性因子や接着因子がFLS細胞からどのように発現しているかは不明のままである。 今後はELISA法を利用してFLS細胞にADPを作用させた際にMCP-1/CCL2がタンパクレベルで発現しているか、あるいはFLS細胞が破骨細胞の分化・活性化にどのように影響しているのかを解明するべく調査をすすめる。
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