2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K19354
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
佐藤 利栄 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (20804892)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 湿布依存 / インターネット調査 / 国民医療費 / 患者調査 / 医師調査 / 連続処方 / 不適切処方 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は①湿布依存状態の患者の特徴、②湿布薬を過剰または不適切に処方する医師の意識・行動を調査することで、湿布の過剰処方および不適切処方の実態を明らかにし、その是正を提言することで医療適正化を図り、現在の日本の医療に急務である国民医療費削減に貢献することを目的とする。2019年度には調査①1000名規模の島根県内の農業従事者を対象とした患者調査を施行した。この結果を踏まえ、2021年度には介入を行わない2つの横断観察研究(調査②全国の国民を対象としたインターネットによる患者調査、調査③全国の医師を対象としたインターネットによる医師調査)を実施した。2022年度は、これらの3つの調査の論文化および学会発表に向けての活動を行った。湿布は、西洋医学では筋損傷の急性期にアイシング効果を期待して使用されるが、その使用頻度は日本に比して非常に少なく、日本における湿布の臨床利用は世界的に独特と言える。湿布の医学的効果が十分に明らかにされていないにも関わらず、湿布は日本の文化の中で伝統的に使用されており、湿布薬の薬剤料は調剤医療費の約1.7%を占める。調査①および②より、高齢を中心に、湿布に対する盲目的な絶対的信頼感に基づき湿布の処方を求める患者が多いことが明らかになった。これに対し、調査③により、医師も湿布の医学的効果について疑問を持ちつつも、湿布処方が患者とのコミュニケーションツールとして捉えている、または、限られた短い診療時間で患者と湿布の必要性について議論することを望まず、患者の求めに応じて処方を継続していることが明らかになった。この事実を世界にどのように訴えかけるかの検討に難渋した。日本国内外の様々な視点から、日本における国民医療費の適正使用について議論することは、今後の日本の健全な国民皆保険制度の維持・発展に必須であることから、本調査がその議論の一つの契機になるよう考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画では、2019年度にプレ調査として患者調査およびその解析、2020年度に患者を対象としたインターネットによる全国調査とその解析、2021年度には個別に送付した質問紙による医師を対象とした全国調査とその解析を行なう計画であった。 しかし、その後、医師調査もインターネット調査へ変更したため、変更に伴う遅れが生じた。また、インターネットによる全国調査の実施に伴い、島根大学医学部の倫理委員会で承認を得るまでにかなりの時間を要した。これは、島根大学医学部の倫理委員会で、インターネットによる全国調査を承認した前例がなく、調査概要についての説明文書の公開方法、アンケート参加者の同意の取得方法とその撤回方法等について慎重に検討が行われたためである。このため、2020年度に計画していた患者調査を2021年度に後ろ倒しして、2021年度に患者調査と医師調査を同時期に行うよう計画を変更した。 加えて、コロナウイルス感染症パンデミックにより、各種調査の施行に遅れが生じた。2022年度は、これまで施行した3つの調査について、海外での学会発表および論文化に充てる予定であったが、コロナウイルス感染症パンデミックの影響が残り、オンラインでの海外発表が多かった。しかし、湿布は日本特有の臨床プラクティスであり、発表にあたり文化背景の異なる研究者への発表や詳細説明は対面によるインタラクションが望ましいと考えられた。このため、2022年度内での海外発表は断念するに至った。2023年度は、対面による国内外の学会実施が期待されることから、発表に向けて精力的に活動したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、調査①島根県内の農業従事者を対象にした患者調査、調査②全国の患者調査、調査③全国の医師調査を完了し、その解析結果を得ている。2022年度は、これらの結果を論文化し、国内外の学会での発表を目標としていたが、叶わなかった。2023年度は、これらの実現を目指し、発表の機会を得るために積極的に活動したいと考えている。 調査①では、湿布依存と不眠、湿布依存とうつが関連することが明らかになった。この事実を、他の物質依存・行為依存と比較することで、「湿布依存」という状態が存在することの妥当性を社会に発信したい。調査②では、調査①で示された関連性が妥当であるかを、全国調査の結果に照らし合わせ検討し、これを発表したい。調査③では、申請者が臨床経験の中で感じていた、「湿布依存」状態の患者が存在するであろうという印象を、アンケートに回答した医師の半数以上も感じていたことが明らかになった。また、医師の湿布処方に対する考え方とプラクティスに関するアンケート結果から、申請者が予想していた『湿布依存の患者が、湿布の効用性とは無関係に湿布処方を希望し、それを容認して連続処方し続ける医師が一定数いる』という実態が明らかになった。この結果を学術的に発表するだけではなく、日本の医療における湿布処方の在り方について再考する契機になるよう、社会に働きかけていきたい。湿布処方のように、医学的な妥当性が十分に検討されていないが慣習として存在し続けている医療のプラクティスに対し一石を投じ、患者さんにとって、より適切で、かつ医療経済的により効果的な医療を提供できる医療体制への変革、医療適正化を図り、現在の日本の医療に急務である国民医療費削減に貢献できるよう、研究者としての社会的役割を果たしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初の本研究の研究計画の段階から、費用に関して大幅に変更が生じている。この原因としては、インターネット調査の費用について想定額と乖離があったこと、医師を対象とした全国調査の際、当初は施設単位の質問紙調査を想定しており、研究協力者、アンケート参加者へ謝礼、および研究協力を得る施設への旅費も計上していたためである。したがって、初年度(2019年度)のハードウェアおよびソフトウェアの新規購入を見送った。しかし、医師調査をインターネットによる全国調査に切り替えたため、調査費用に変更が生じた。 また、コロナウイルス感染症のパンデミックにより、国内・国外への出張ができず、毎年計上していた国内外での学会への参加費および旅費が使用できなかった。 以上の状況を踏まえ、2022年度の時点で本研究の研究期間を1年間延長申請した。しかし、2022年度も対面での学会は国内外ともに少なく、参加を見送った。2023年度は、積極的に国内外問わず学会に参加し、日本国内および海外にも本研究の結果を発表する機会を作りたいと考えており、その参加費や旅費に使用したいと考えている。また、論文作成に当たり、英文校正や論文投稿にかかる費用に使用したいと考えている。
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