2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K19375
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
廣瀬 充明 筑波大学, 医学医療系, 講師 (30836987)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クリティカルパス / ビッグデータ / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では特定の疾患に対する診療行為を標準化・効率化するためのマネジメントツールであるクリティカルパス(以下パス)の問題点として、運用面の限界とデータによる裏付けが不十分であることを挙げている。その解決策として、パスの作成に対し診断群分類包括評価(DPC)などのビッグデータを活用して、リアルワールドにおける診療行為を人工知能解析することで、最適なアウトカムが達成できるようなパスの自動作成を検証し、最終的に医師等の医療スタッフのパス作成における業務負担軽減を図ることを目的としている。このような取り組みは全国的にも初めてであり、初年度である2019年度は当初の計画からいくつかの修正を行うこととなった。すなわち、解析対象を入院中にERCPを受ける胆道疾患症例から、脳梗塞症例とした。ERCPを行う患者は入院期間が比較的短く、疾患背景が多様である一方、脳梗塞症例は入院期間が長く、患者背景は高齢者が中心となるため均一であり、分析が複雑化する懸念が少なかったのがその理由である。また、途中で用いるビックデータに「個票」が必要であることが判明し、データ入手元を厚生労働省から全国的に多数のDPC病院がデータを提供しているメディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV)へ変更した。実際の研究として、まず入手したデータのクレンジングを行い、解析対象を41,569例の脳梗塞症例として抽出した。続いて(株)MICINと共同で機械学習を用いた解析を開始し、早期の段階での食事開始オーダーの有無に着目しながら、医師によるオーダー決定に及ぼす影響因子(患者背景・合併症など)の分析探索を進めた。2020年度はこの解析を継続するとともに、パスの自動作成のために必要な因子の選定や、作成アルゴリズムの構築を行っていく予定である。これらの結果は、学会や論文で発表を行い、広く国内へ情報発信することで日本社会への還元を目指していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.DPCデータの入手 ①提供元の決定:本研究の主題は「特定の疾患群における診療プロセスの標準化を目指し、人工知能によるDPCのビッグデータ分析を活用してクリティカルパス(CP)を自動作成すること」である。従って最初の課題は「多数例のDPCデータをどう入手するか」であった。当初は厚生労働省からの提供を想定し約3ヶ月間にわたって申請手続きを進めたが、厚労省経由の開示情報にはDPCデータの「個票」を含まないことが判明したため他の提供元を模索した。そこで、全国的に多数のDPC病院がデータを提供しているメディカル・データ・ビジョン株式会社(MDV)へ変更し、同社との交渉を重ねた。②対象の選定:次に、解析対象とする疾患群の選定に入った。当初は入院中にERCPを施行した胆道疾患症例を予定していた。しかし入院期間が比較的短いこと、さらにERCP適応疾患は多岐に及び患者背景が多様であるため分析が複雑化する可能性が懸念された。再考した結果、脳梗塞は症例数が豊富で疾患粒度が概して均一であることから、同疾患を本研究の対象へ変更することとした。③データの入手:2019年9月末にはMDVと契約を締結し、同年10月に納品された。入手データの概要は、2014年4月から2019年7月までにDPCコード010060として抽出した391,627入院分(215,236例)である。 2.DPCデータの解析経過 ①データクレンジング作業:(株)MICINとの共同で機械学習を用いた解析を開始した。まず、DPCデータのクレンジング作業に着手し、解析対象を41,569例へ絞り込む工程をすでに完了した。②解析内容の設定:次に、CP作成には入院早期に退院後転帰を予測し得るパラメーターの選定が重要と考えた。そこで早期の段階での食事(経口および経腸栄養を含む)開始オーダーの有無に着目した。現在は、医師によるオーダー決定に及ぼす影響因子(患者背景・合併症など)の分析探索を徐々に進めており、2020年度も継続していく。
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Strategy for Future Research Activity |
1.解析の進め方:①まず具体的な特徴量を作成すること。次に結果変数として「入院期間」と「入院時と退院時のADLスコア改善度」を設定し、各特徴度の重要度を可視化すること。さらにそれぞれの傾向スコアを算出すること。なおこれらの解析には、Boostingモデルのfeature importance(XGBoostによる傾向スコアの予測)とSHAPによる可視化を用いる。②続けて傾向スコアと真のスコアを比較することで、ズレが大きい症例での原因を検索し、公絡因子に関する考察を加える。その結果を踏まえ、より精度の高い特徴度を抽出する。③最終的には、結果変数と関連度の高い共変数が何かを解析し選定する。 2.クリティカルパスの作成に向けて:本研究の目標はCPの自動作成である。そのための基盤研究の先行が必須であり、退院後転帰の適格な予測が可能でかつ入院早期に確定できる診療プロセスの共変数を抽出することが急務である。さらにそれらの共変数を実際の新規入院患者の経過に適応させ、転帰の予測値と実際の転帰との整合性検証も重要である。この作業を反復することで、効果的で実効性の高いCPを作成するための知見を蓄積させる。今回は入院早期の食事の有無に基づき脳梗塞症例をモデルとして解析を進めるが、この手法は他の疾患にも応用・実践できる発展性がある。研究期間内に、可能であれば対象疾患を拡げ追加解析にも着手してみたい。 3.学会報告の予定:得られた成果について①医療情報連合大会、②全日本病院学会などでの報告を予定する。 4.論文化の予定:①日本マネジメント学会雑誌、②全日本病院協会雑誌、③日本医療情報学会雑誌などへの論文投稿を予定する。可能であれば、海外の英文誌(①「Stroke」IF:6.046、②「Translational Stroke Research」IF:5.847)などへの投稿を目指す。
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