2019 Fiscal Year Research-status Report
放射線災害看護のシミュレーション教育用シナリオ(日本語版・英語版)の開発
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19K19525
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
漆坂 真弓 弘前大学, 保健学研究科, 准教授 (70326304)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 放射線災害 / シミュレーション教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は福島第一原子力発電所事故に関連する健康と医療ニーズに関する文献検討を中心に行った。福島第一原子力発電所事故では放射線性物質の拡散により、人々の生活や健康が脅かされる事態となった。原子力発電所周囲の住民らには避難等の措置が取られ、それまでの生活は一変することになり、心身共にストレスフルな状況下に置かれた。放射線影響も懸念しながら、被災に伴う生活の変化により、持病や生活習慣病の悪化、不眠や抑うつなどメンタルヘルスの問題の浮上、コミュニティの分断による引きこもり、福島県民ということによるスティグマやセルフスティグマ等、福島第一原子力発電所事故における看護ケアのニーズは複雑かつ多岐にわたることが明らかとなった。看護職者が看護ケアを行うにあたっては、放射線に関する基礎的・専門的知識に加え、放射線災害がもたらす社会心理的影響にも通じた上で、健康・医療ニーズを抱えた対象者にケアを提供する必要性がある。 他方、被災者の支援にあたる災害支援者らは、混乱した状況の中で被災者らの不安や不満の対応にあたるなかで強いストレスにさらされ疲弊していき、心身に不調を訴えていた。また事故を引き起こした事業所に勤める職員らは、被災者でありながら加害者でもある状況に置かれ、過酷な環境の中、並々ならぬストレス下に置かれながら事故の収束に向けて勤めていることが明らかにされている。自然災害とは異なり加害者と被害者のいる災害の特徴は、その災害をどの立場で受けるかによっても非常に複雑な健康・医療ニーズがあることが示唆された。 以上、文献検討によって明らかとなった健康・医療ニーズを踏まえてシナリオ作成を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
放射線災害で求められる医療・健康ニーズは、地域、立場、状況、時期等によって異なり、非常に複雑であり多様である。放射線災害を担う医療機関の役割機能も鑑み、看護職者の放射線災害に関する習熟度に応じたシナリオを作成にするには、これまでの知見を十分に検討する必要がある。そのため看護ケアが必要な状況を分析し、看護のニーズを見極めるための文献検討に時間を要した。結果、災害の時期だけではなく、被災地域、ニーズを抱える対象者の立場・役割、自然災害とは異なる医療・健康ニーズを抱えた対象者の社会心理的側面、コミュニティへのコミット等、対象者を全体的にとらえた上で看護ケアを提供するシナリオを作成する必要性が明らかになった。今年度は文献検討による示唆を踏まえて、シナリオを作成する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
文献検討による示唆を踏まえ、今年度はシナリオデザイン、シミュレーションのアウトライン、ブリーフィングガイドの作成及びαテストを実施し、シナリオを検証する。シナリオ作成にあたっては、専門家の助言を受けながら修正する予定である。一方で、また、シミュレーション教育をするにあたって必要となる放射線災害に関する基礎的な知識・技術も必要となることから、これらに関する資料作成も行う。
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Causes of Carryover |
今年度は文献検討を中心に活動を行い、シミュレーション教育における学習課題と学習内容の抽出に重点を置いた。そのため主な支出が文献リスト作成に係る物品の購入に留まり、シナリオ作成に向けた専門家への謝金や出張費などの支出がなかった。 次年度は具体的にシナリオを作成し、シナリオ作成における専門家からの助言を受けるにあたっての謝金、シナリオを英語翻訳するにあたっての校閲費、αテストを行うにあたって協力者への謝金、放射線に関する基礎的専門的知識に関する資料作成(e‐ラーニング)の構築費等に支出する予定である。
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