2019 Fiscal Year Research-status Report
「パネート細胞αディフェンシン」に着眼した2型糖尿病発症メカニズムの解明
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19K19610
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Research Institution | Sapporo University of Health Sciences |
Principal Investigator |
加藤 剛寿 札幌保健医療大学, 保健医療学部, 講師 (00756421)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 2型糖尿病 / 過食 / パネート細胞 / αディフェンシン / 腸内細菌叢 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はPaneth細胞αディフェンシンの分泌異常を介した2型糖尿病の発症メカニズムを解明することを目的としている。 第一段階(2019年度)として、Paneth細胞の異常がαディフェンシンの分泌障害をもたらし、腸内細菌叢の破綻を介して糖尿病を発症することを検証するため、2型糖尿病発症モデルマウスであるdb/dbマウスを用いて体重、血糖値、Paneth細胞数、Paneth細胞αディフェンシン分泌量、腸内細菌叢の解析を行なった。その結果、対照群と比較してdb/dbマウスの体重および血糖値が上昇し、それに伴ってPaneth細胞からのαディフェンシン分泌量は減少した。また、db/dbマウスの血糖値が上昇しαディフェンシン分泌量が低下した時点で、回腸におけるPaneth細胞数は減少していた。さらに、db/dbマウスの腸内細菌叢は、αディフェンシン分泌量が低下した時点において対照群とは有意に異なるβ多様性を示した。以上より、db/dbマウスにおける糖尿病の発症には、Paneth細胞数の減少によるαディフェンシン分泌量の低下と、それらを介した腸内細菌叢の破綻が関与することを明らかにした。 第二段階(2020年度)として、db/dbマウスにおいてPaneth細胞数の減少やαディフェンシン分泌量の減少を引き起こす要因が過食による影響であるのか明らかにするため、db/dbマウスに摂食制限(WTマウスと同程度の摂取量で設定)の介入試験を行い、自由摂食群と比較して血糖値上昇やPaneth細胞数減少、αディフェンシン分泌量の減少に改善が認められるか解析する予定である。 そのための前段階として、2019年度にWTマウスの食餌摂取量を確認し、摂食制限を行うにあたっての給餌方法を具体的に検討し、第二段階の介入試験への準備を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における現在までの進捗状況がおおむね順調に進展している理由として、以下の2点が挙げられる。 1点目は、冒頭の研究実績の概要で述べた通り、db/dbマウスにおける糖尿病の発症には、Paneth細胞数の減少によるαディフェンシン分泌量の低下と、それらを介した腸内細菌叢の破綻が関与することを明らかにしたことである。なお、計画通りに進められた要因として、Paneth細胞αディフェンシンに関する研究に精通する研究者のもとで、綿密な議論と実験による検証を重ねた結果であると考えている。 2点目は、第二段階(2020年度)の摂食制限試験の実験の具体的な給餌方法の検討を行い、速やかに次の段階の実験が行える事前準備を整えることができ、当初、2020年度から開始する予定であった介入試験の前段階を進めて、一部計画以上の進展があったことが挙げられる。 一方で、当初、2019年度から予定していた運動介入試験のプレ実験は、まず糖尿病の要因を明らかにする実験である摂食制限試験の事前準備を優先して実施する必要があると考え、実施せず、2020年度に実施することとした。 以上のことから、全体構想を考えて一部計画を変更した部分はあったものの、概ね計画通りに進展し、Paneth細胞αディフェンシンの分泌異常を介した2型糖尿病の発症メカニズムを解明するという本研究の目的に、3年計画の1年目として順調に進捗した。
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Strategy for Future Research Activity |
Db/dbマウスの糖尿病発症機序にPaneth細胞αディフェンシンの分泌異常が関わることが第一段階(2019年度)の試験で明らかとなった。Db/dbマウスはレプチン受容体遺伝子の変異によって過食による肥満と高血糖を呈する2型糖尿病モデルマウスであることから、db/dbマウスでみられたPaneth細胞αディフェンシンの分泌異常の要因としてレプチン受容体遺伝子の変異による影響と過食による影響とが考えられる。 第二段階(2020年度)では、このαディフェンシン分泌異常の要因が過食であるか明らかにするため、db/dbマウスに対して摂食制限による介入試験を行う予定である。具体的には、db/dbマウスを摂食制限群および自由摂食群に分け、摂食量、飲水量、体重、血糖値、Paneth細胞数、Paneth細胞αディフェンシンの分泌量、腸内細菌叢の解析を行い、摂食制限によりdb/dbマウスでみられたPaneth細胞数やαディフェンシン分泌量の減少が抑制されるか、また、それに伴って体重増加、腸内細菌叢の破綻や血糖値上昇が改善するか解析する。これによって、過食がαディフェンシン分泌異常を介した腸内細菌叢の破綻をもたらし、糖尿病を発症するかを明らかにする予定である。 さらに、その後はPaneth細胞αディフェンシンの分泌異常による糖尿病発症をさらに改善するため介入試験を計画している。介入によって、db/dbマウスでみられたαディフェンシン分泌量の低下が抑制され糖尿病の発症に与える効果を解析していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初、2019年度から介入試験を行う予定であったため、マウス用トレッドミルを購入予定で2019年度予算を計上していた。しかし、前述の研究実績の概要で記載した通り2019年度は摂食制限の介入試験を行い、他の介入試験を実施しなかったため、2019年度のマウス用トレッドミルの購入費用分が繰り越され、次年度(2020年度)使用額として生じた。 今後の使用計画としては、摂食制限の介入試験の際に生じる物品費全般、研究発表に伴う旅費、マウス用トレッドミルの購入等を予定している。
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