2021 Fiscal Year Research-status Report
アスリートを対象とした簡便なあがり防止法の開発: 脳活動の偏側性を利用した試み
Project/Area Number |
19K19956
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
平尾 貴大 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子医科学研究所 脳機能イメージング研究部, 研究員 (70824572)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | あがり / ニューロフィードバック / バイオフィードバック / 反復把握法 / EEG |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の根幹となる反復把握法とニューロフィードバックの相乗効果の検証について、実験データの取得を開始した。16名よりデータ取得を完了しており、現在は、データ取得の継続とともに当該データの解析を進めている。 また、刺激前陰性電位(stimulus-preceding negativity: SPN)と呼ばれる島皮質を主な発生源とする事象関連電位の機能的意義に関する研究成果報告を行なった(Hirao et al., 2021; 松橋・平尾・正木, 2021)。自らの行為がどのような結果をもたらすかをフィードバックとして確認することで、ヒトはその行為が自らに及ぼす影響を学ぶことができる。Hirao et al. (2021)では、fMRI実験と脳波実験を通して、フィードバック刺激の予期に関する島皮質活動が、「行為と結果が随伴していない条件(e.g.,コンピュータが自動で選択した際)」よりも「行為が結果に随伴している条件(e.g.,自分が選択した際)」で増大することを報告した。本研究の結果の一部は、Psychophysiologyにおいて論文として成果公表したものであった(Hackley, Hirao et al., 2020)。ヒトは、暗黙のうちに運動結果の予測しており、その予測は運動パフォーマンスに影響を与えることが示唆されている。本研究のSPNは運動結果の予測とは異なる文脈で計測されたものではあるが、得られた予測の神経基盤に関する基礎的な知見は、あがりの神経基盤を理解するために役立つものとなる可能性がある。その他、運動関連の知見として、右頭頂部位におけるSPN振幅値の個人差が、運動学習の進度と関係する旨の成果報告も実施した(松橋・平尾・正木, 2021)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
スポーツパフォーマンス直前に、左手でボールを反復把握するだけで競技場面のあがりを防止できる(以下、このあがり防止法を反復把握法と呼ぶ)。大脳の右半球には「空間認知」、左半球には「言語野」が存在する。左手の反復把握によるあがり防止効果は、これらの機能局在に起因すると予想されている。令和3年度は、反復把握法とニューロフィードバック訓練(脳波計測により脳活動を視覚フィードバックとして呈示し、脳活動の左右差創出を目的とした訓練を実施する)のあがり防止効果検証を開始した。当該実験では、ゴルフパッティングを課題として用いた[人工芝(長さ5 m、幅1.5 m)上で、2 m離れたターゲットに対してパッティングした]。群間比較でニューロフィードバック訓練の効果を検証した。プレトレーニング、ポストトレーニング、プレッシャー下において、把握の有無に関する2条件を設置したため、合計6条件においてゴルフパッティング課題は実施された。パッティングパフォーマンスは、天井に設置したカメラで記録し、昨年度以前に作成した画像処理プログラムを使用して評価した。今年度取得したデータは16名(M ± SD: 21.4 ± 1.3)であった(ニューロフィードバック訓練実施群、Sham群それぞれ8名)。現在、データの解析を進めている最中である。 本申請研究の根幹をなす実験を開始し、ある程度データ取得を進めることができたことから、進捗状況はおおむね順調だと考えているが、令和2年度以前におけるコロナウイルス感染拡大防止のための休止期間を穴埋めするほどの進度ではないため、進捗状況の主観評価を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度、反復把握法とニューロフィードバックの相乗効果の検証に関する実験で、16名よりデータ取得した。ニューロフィードバック訓練実施群、Sham群(統制群)に群分けしたため、1群あたり8名であった。更なる実験データの追加が必要である。今後は、データ収集を継続しつつ、取得済みのデータ解析を進める。より具体的には、まずは取得データのノイズの除去法について検討する必要があると考えている。本実験ではゴルフパッティングを課題とし、パッティング動作直前の脳活動について、脳波計測により検討している。運動由来のノイズを適切に除去し、脳関連の信号の検出力を向上させることが必要である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大防止の観点から、所属学会が軒並みオンライン開催となった。学会参加のための交通費が不要となったことが、使用金額が減少した理由の一つである。 令和3年度より、研究代表者自身が所属先を変更した。所属先には脳波計測に関する装置が一通りそろってはいるが、新しい所属先での実験環境整備のために費用が必要となる可能性がある。また、すでに前所属で開始したデータ取得を継続的に実施する必要があるため、今後、予定していなかった交通費の必要性が生じる可能性がある。今年度の研究費の剰余分は上述したような、研究申請時には予期しなかった費用の捻出にあてることができればと考えている。
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