2019 Fiscal Year Research-status Report
筋タンパク質合成シグナルの応答性に着目した、新たなトレーニング効率化手段の開発
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19K19963
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹垣 淳也 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (10824055)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | レジスタンス運動 / レジスタンストレーニング / 骨格筋肥大 / IRS / MAPK |
Outline of Annual Research Achievements |
レジスタンストレーニングは骨格筋量を維持・増大させる手段の一つとして、医療・スポーツの現場で広く用いられている。一方で、トレーニングを長期的に行うと、経過に伴い運動効果が減弱し、筋肥大効果が得づらくなっていく。その理由として、筋肥大を導くp70S6Kの応答が減弱することが挙げられているが、そのメカニズムは不明である。このメカニズムとして、IRSシグナルとMAPKシグナルの2つの経路の応答変化が関与している可能性がある。本研究では、これらの2経路に着目して検討を行い、トレーニングの経過に伴うp70S6Kの応答性減弱メカニズムを明らかにする。さらに、原因因子に対する抑制介入を併用して、トレーニングを行うことで筋肥大効果が向上するかを検討する。 2019年度は、トレーニングの経過に伴うIRSシグナル応答の変化と、MAPKシグナル応答の一部の変化を検討した。 雄性SDラットを対象にレジスタンス運動を1日おきに10回行い、初回と10回目の運動終了後のp70S6Kのリン酸化応答とIRSシグナル応答を検証した。その結果、初回と比較して10回目の運動終了後のp70S6Kのリン酸化応答は有意に低減していた。一方で、IRS-1のリン酸化応答に有意な変化は認められなかった。従って、トレーニングの経過に伴うp70S6Kのリン酸化応答の低減に、IRSシグナルは関与しない可能性が示唆された。続いてMAPKシグナル応答について検討を行った。運動後のp38 MAPK,ERK1/2,JNKのリン酸化応答について検討を行ったところ、JNKのリン酸化応答については顕著な変化は認められなかったものの、他の2因子のリン酸化応答は初回と比較して10回目で有意に低減していた。従って、トレーニングの経過に伴うp70S6Kのリン酸化応答低減には、MAPKシグナルの応答減少が関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、トレーニングの経過に伴うIRSシグナル応答の変化を検討することを予定していた。まず初めに、モデル作製のためp70S6Kのリン酸化応答が顕著に減少するセッション数の検討を行ったが、当初予定していた3セッションではピーク時におけるリン酸化応答の低減の程度が不十分であったため、さらに繰り返し数を多くし、ピーク時におけるリン酸化応答の低減が十分に確認できた10セッション目を採用することとした。 p70S6Kは、リン酸化が生じた際にこのPI3K-Akt-mTORC1シグナル経路の上流に位置するIRSに対して、ネガティブ・フィードバックを生じることが示されている。従って、レジスタンス運動を繰り返し実施した場合、p70S6Kの活性化自体が上流に位置するIRS応答に変化を生じ、応答を減弱させていた可能性が考えられたため、先ずこの経路を検討することとしていた。しかしながら、仮説に反してこの経路には顕著な変化が生じておらず、トレーニングの経過に伴うp70S6Kのリン酸化応答の低減には、別の機構が関与している可能性が高いと考えられた。従って、次に検討することを予定していたMAPKシグナルの応答について、解析を行った。その結果、運動直後のMAPKシグナルの応答が、初回と比較して10セッション目で顕著に低減することが明らかとなった。よって、MAPKの応答変化が、p70S6Kのリン酸化応答の変化に関与する可能性が示唆された。 以上のように、モデル作製に想定よりも時間を要したこと、並びに当初有力な責任因子であると考えていた経路の関与の可能性が低かったことなどから、本年度に実施する予定であった内容については計画から少々逸脱する進行となった。一方で、他経路の解析の結果、本来の目的に接近する十分な洞察を得られていることから、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
MAPKは細胞内でストレスセンサーとして機能していることが知られており、レジスタンス運動では主にメカニカルストレスを感知して活性化することが考えられている。一方でストレスを感知した後にMAPKが活性化する上では複数のシグナル因子が関与するが、現状このシグナルにおいて抑制機構が働いているのか、それともメカニカルストレスの伝達そのものが抑制されているのかが不透明である。従って、今後はこれまで行ってきた解析を引き続き継続するとともに、MAPKシグナルの上下流因子の動態とメカニカルストレスの伝達機構の変化を検討することで、トレーニングの経過に伴いMAPKの適応変化が生じたメカニズムをより詳細に検討していく。レジスタンストレーニングは骨格筋細胞の細胞外マトリクスの構成を変化させることが知られている。一方で、機械的刺激による骨格筋内のMAPKの応答性は、筋損傷後や加齢など、骨格筋の細胞外マトリクスの構成に大きな変化を伴った状態で変化することが報告されている。従って、今回見出されたトレーニングの経過に伴うMAPKの応答性変化は、細胞外マトリクスの変化によって生じた可能性が考えられる。これらのことから、次年度はラットを対象にレジスタンストレーニングの経過に伴うMAPKの上下流シグナルの変化を確認することと併せ、細胞外マトリクスの構成要素の変化などを検討していくことを予定している。さらに、MAPKの応答変化の責任因子が明らかとなれば、その変化に対する抑制的介入を行うことで応答性変化が消失するか否かを検討し、関与の程度を明確化する。その上で、最終的には貢献度が高い因子を見出し、その因子に対する介入と併せてトレーニングを実施し、筋肥大効果を促進するか否かを検討していく所存である。
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Research Products
(3 results)