2019 Fiscal Year Research-status Report

骨格筋電流刺激を用いた単一筋ダイナミクスの変化に対する運動適応の解明

Research Project

Project/Area Number	19K20067
Research Institution	Kyoto University
Principal Investigator	萩生翔大京都大学, 人間・環境学研究科, 講師 (90793810)
Project Period (FY)	2019-04-01 – 2023-03-31
Keywords	筋電気刺激 / 運動学習 / 筋疲労
Outline of Annual Research Achievements	ヒトは外部環境と身体との相互作用の中で、運動を修正し必要な運動を生み出している。これまで特殊な力場などを用いて制御器（腕など）のダイナミクスを変化させ、新奇な身体ダイナミクスに対する運動適応について調べられてきた。一方で、筋損傷・筋疲労などに起因する個々の筋状態の変化によっても生み出される運動は変化する。ではこうした単一筋ダイナミクスの変化に対して個々の筋活動がどのように修正され、目的となる運動が生み出されているのか。筋疲労を扱った多くの先行研究では、随意的に持続的な力を発揮し筋疲労を誘発させる方法がよく用いられてきた。しかし、関連する個々の筋が異なる速度で疲労してくため、単一筋が疲労した際の関連筋の修正動態を定量することができない。そこで本研究では、高周波の筋電気刺激を用いて、受動的に単一筋の疲労を誘発させ、その結果生じた運動誤差に対して、個々の筋活動がどのように修正されるのかを調べた。実験課題は、上肢で発揮された等尺性の力に対応したカーソルをターゲットに向かって操作するものとした。課題途中の静止状態で、上腕二頭筋長頭へ高周波電気刺激（二相性パルス波、80Hz、パルス幅1ms）を与えたところ、続く試行のカーソルの動きに誤差が生じた。その後何試行かかけて誤差が修正される過程において、関与する筋活動を測定した。その結果、学習初期は刺激筋である上腕二頭筋長頭の活動が増加したが、学習後期では徐々に減少し、力発揮に関わる他の筋の活動が増加した。本研究から、疲労に伴う単一筋ダイナミクスの変化に対して、運動に関連する他の筋の活動を調整することによって運動が修正されることが明らかとなった。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 1: Research has progressed more than it was originally planned. Reason 当初は、上肢での力発揮課題を用いた研究（「研究実績の概要」に記載）のみを実施する計画であったが、本年度は、本実験結果を全身運動（立位制御や歩行、ジャンプ動作など）に拡張するための実験系の構築を進められた。合わせて、新たな実験系の性能を確認するための実験を実施した。今後は筋電気刺激を用いた本研究手法と、構築した新たな実験系を組み合わせて研究を遂行することを計画している。
Strategy for Future Research Activity	昨年度は、上肢での力発揮課題を用いて、疲労に伴う上腕二頭筋長頭のダイナミクスの変化が、他の関節を支配する筋の活動を修正させることを明らかにした。一方で、同一の関節を支配する協働筋である上腕二頭筋短頭においても活動に変化が見られた。こうした協働筋の活動修正は、脊髄などの下位の経路によって半ば自動的にプログラムされたものなのか、もしくは、上位中枢などが関与し目的をもって修正されるものなのか。この問いについて明らかにすべく、協働筋である大腿四頭筋群の活動に着目し、下肢での力発揮課題を用いた実験を計画している。課題は、足首周りで発揮された等尺性の力に対応したカーソルを操作するものとし、課題途中で高周波の電気刺激を外側広筋に与え疲労を誘発させる。この時、刺激後の試行で、膝関節の伸展方向と股関節の屈曲方向の力を同時に制御させる場合と、膝関節の伸展方向の力のみを制御させる（股関節の屈曲方向のカーソルの動きはクランプする）場合の２通りにおいて実験を実施する。二関節筋である大腿直筋は、膝関節の伸展・股関節の屈曲両方に関与するため、前者の試行の場合、単関節筋である内側広筋や中間広筋を中心とした筋活動の修正が起こることが予想される。一方で、後者の試行の場合は、大腿直筋・内側広筋・中間広筋の活動が同時に修正されることが予想される。
Causes of Carryover	本年度、所属研究機関の異動があり、実験実施時期を一部次年度に変更したため、当初予定していた被験者への謝金および実験にかかる消耗品・備品購入は翌年分に請求することを計画している。