2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K20080
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Research Institution | Tokyo Women's College of Physical Education |
Principal Investigator |
武藤 伸司 東京女子体育大学, 体育学部, 講師 (90732777)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 質的研究 / 方法論 / 現象学 / スポーツ運動学 / アウトドアスポーツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題における2019年度の成果は、研究調査によるデータ収集と、それに基づく質的研究方法を用いた論文の公開が挙げられる。前者においては、スポーツ技術獲得のプロセスを理論化するために、質的研究が有効であるか否かという観点において、以下の具体的な方法を用いた。小型ウェアラブルカメラを使用し、スポーツ実施時における研究対象者の主観映像とその様子を外部視点から捉えた客観映像を対比させ、両映像を同期させ、両映像を見比べながら、運動実施中の感覚や思考をインタビューした。これについては、パリ第5大学のアンドリュー・ベルナール氏が実施しているエメルジオン研究を参考にしており、この方法の妥当性についての検証も意図している。結果としては、今回はスキー技術が対象であったが、初心者と熟練者の両方に同様の実験を行った。前者は当然のことながら初めての体験であり、そもそもスキー技術に対する語彙力がないせいもあり、明確に証言として技術のコツやカンの言及は不明瞭なものであった。しかし、複数日にわたる習得プログラムの中でクロスカントリーを実施した際、その後の通常のスキーにおいて、飛躍的な技術の向上とその実感を得られてという証言を得た。また、後者の熟練者においては、急勾配やコブ斜面を滑走する際のコツや、特にカンとして先の動きや滑りの戦略を思考しながら滑走しているという点について、詳細な証言を得られた。これらの結果については、次年度に論文として公開する予定である。 また、後者の論文公開については、本学の紀要にアウトドアスポーツの学修成果に関する論文を共著で投稿し掲載された。本学の野外教育研究を専門とする教員とともに、登山とカヤックの技術習得における質的研究方法による分析が、その内容である。この論文において用いた質的研究方法は、グラウンテッド・セオリーであり、その方法の有効性も同様に検証する目的も含まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、身体運動、主にスポーツの技術獲得がいかにしてその運動する主体において生じるのかという点を、それを研究対象にし得る研究方法の模索という、二つの目的がある。そのため、質的研究という研究対象者の体験記述をデータとして用いる方法が大枠として設定され、様々ある質的研究方法のうち、どのようなものがこの研究目的に適うのか、実践的な検証を行わねばならない。こうした事情において、2019年度の本研究課題の進捗は、データ獲得のための研究調査や、現場のデータを用い、かつ質的研究方法も用いた論文を作成できたという点で、概ね順調といえる進捗状況である。 しかしながら、年度末に予定していた海外渡航における研究調査が新型コロナウィルス対策により実行不可能となり、この点の穴埋めや代替案を次年度の研究において行わなければならない。海外渡航については、現場視察は無理であるが、目的の研究者と遠隔会議において議論を交わすなどで代替したい。あるいは、2019年度において構築されたアウトドアスポーツ系の研究者や現場の協力者との関係を生かし、実践的現場の継続的なデータ収集と研究を行いたい。こちらについても、新型コロナウィルスの収束次第ではあるが、本研究課題のために大きな寄与をもたらすと予想できる点である。今後、情勢を鑑みて柔軟に対応することとする。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、2019年度に収集したデータを用いての論文作成と、質的研究の方法論的側面の整理、そしてその実践である。 論文作成については、ウェアラブルカメラの運用について要領を得たこともあり、さらなる実験を行い、データの蓄積をし、検証を継続的に行う。ベルナール氏のエメルジオン研究において、主観的な体験における証言を引き出すための補助線的な有効性が、技術レベルに依存している点が、2019年度の研究では見えてきた。この点を整理し、明確化することで、この質的研究方法の射程を定めたい。 また、質的研究方法自体の本質や意義という観点において、それを裏打ちする哲学的な議論が必要となり、特に申請者の専門である現象学がどのように効果を発揮するのかという点を改めて問うこととする。この点については、様々な研究領域で現象学が用いられ、その用いられる理由も述べられているが、それらを総合した論文を作成したい。 以上のことを、新型コロナウィルスの収束を見定めながら、早ければ8月以降において、本学の研究協力者とともに現場でのデータ取得を目指す。また、その成果を11月までに論文化し、公表する。そして、来年の2月に再度スキーのデータを取得し、上で言及したエメルジオン研究の検証を行う。また、海外渡航が可能であれば、前年度にキャンセルとなった海外の研究者へのインタビューを、3月に行いたい。
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Causes of Carryover |
2019年度の予算執行にあたり、4937円のあまりが出た。金額が少額であっため予算執行期限までに使いきれず、2020年度へ持ち越し、物品費に使いで計上し、消耗品購入において消化する。
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