2020 Fiscal Year Research-status Report
通常学級に在籍する特別な教育支援が必要な生徒に通じる球技指導方略の検討
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19K20081
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
伊佐野 龍司 日本大学, 文理学部, 准教授 (00734112)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 身体性 / 参与観察 / 授業研究 / ボールゲーム / 特別な支援を有する生徒 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度に実施した内容は以下,三点に集約できる。第一に「フィールドワークの実践」である。COVID-19の感染拡大防止の観点から,秋季からの参与となったが,通常学級に在籍する特別な教育支援が必要な生徒が在籍する学校の体育授業に参与観察を実施した。教師と生徒で構成される情況に入り込むことで,生徒の特性から会話等が極めて少ない授業においても,自己・他者と身体活動を通じた関係性を構築していく過程と,それを促進する教師の働きかけの一端を捉えるに至った。 第二に,「観察から得られた知見の発表」である。上記のフィールドワークで観察された出来事のうち,教師が用いる実践的な知識を現象学的観点から考察した内容を口頭で発表した。生徒たちはこれまでの経験や特性上,他者に関わることはしない。教師は他者との関係性構築に会話などの形式的な方法を採用するのではなく,他者との共通領域が身体的な次元でおこる間身体性の構造化を図ることに注力していた。ただし,運動課題を提示することで,それらを実現することは困難であるため,教師はボールゲームが有する機能・生徒,人材配置等の重層的な働きかけを潜在的に展開することで生徒個々のパトスを調整していることが明らかとなった。 第三に,「ボールゲームにおける学習に関する考察」である。ボールゲームが有する文化的側面である分業が,他者を経験する上で有効に機能する。そうした役割分担を内在する機能共同体的な文化を教材とする学習の考え方を検討することで,当該文化の中で学習評価が可能となると共に,他者経験が促進される。こうした問題背景からボールゲーム教材を主題に検討した結果,ゲーム構造論を解釈枠組みとして導入して考えた時,ボール移動やその阻止への部分的貢献が,球技の理解の一部と考えることができることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
COVID-19の感染拡大防止の観点からフィールドへの参与が延期となったが,後期から実施できており,観察された成果の発表ができている.毎週実施される体育授業を参与観察し.教師と生徒の相互作用場面や生徒の非言語的な相互作用場面を確認することができている.生徒たちの特性上,発話の出現は少ないため,参与観察の方法論的特徴である文脈依存的観察が有効に機能している.また,今年度の観察は観察者が毎週通うことで,「余所者」としての違和感を軽減し,「日常者」になることに尽力した.教員とも連携が取れているため,今年度企図した日常者になることは達成されたと考えられる.今後は,日常者の視点から捉えることのできる教師の働きかけ,生徒間の非言語的な相互作用等を観察していく.授業観察後には,担当教員に対して,インタビューを行うこともできているため,教師の意図も確認することができている.なお,現時点において2021年度の観察も実施が承諾されているため,授業が開始され次第,観察を継続する。現在,ボール運動に関する現象学的分析を用いた論文も執筆中である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進は,大要3点である.第一に,「フィールドワークの継続」である.新年度を迎えた観察は初めて実施される.従来,学習規律の設定が授業当初に設定されることが確認されることが多いが,当該学校の場合は,不明瞭であった.顕在的な規律設定は避けることが予想されていたため,潜在的に設定されていく規律も授業展開や関係性構築等に関与することが想定される.また,始業開始から観察することで,教師が構成する指導体系が年間を通じて読み取れることが想定される. 第二に,「研究上の問いに対する解決と課題の抽出」である.申請時に想定された課題解決の目論見が形式的な知に傾斜していたことが観察を通じて明らかとなった.それゆえ,申請時に想定された内容を,観察によって明らかとされた教師の顕在的・潜在的な指導性から批判的に検討し,今後の研究の方向性を定位することが本研究の課題解決と通常学級に在籍する特別な支援を有する生徒に対する球技指導の研究基盤を形成することに繋がると考えられる. 第三に「成果発表」である.研究上の課題として設定した内容の論文執筆を図る.特に,球技のスペース構造を検討する上で重要となるその形成過程や,通常学級に在籍する特別な支援を有する生徒に対する教師の指導性を踏まえた内容の執筆を予定している.
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Causes of Carryover |
学会発表に向けた旅費等で予算を計上してたが,COVID-19の感染拡大防止の観点から,オンラインによる学会となったため,旅費交通費としての支出が少なかった。次年度は,前期より参与観察が実施可能であるため,旅費交通費を早急に支出する。また,人件費・謝金については,今年度論文執筆においてネイティブチェック等において使用を計画している。
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Research Products
(8 results)