2020 Fiscal Year Research-status Report
Positional Control in Playing Keyboard Instruments of Various Sizes and Directions
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19K20095
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
大澤 智恵 武庫川女子大学, 音楽学部, 准教授 (90726093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 鍵盤 / 空間認知 / 視覚 / 聴覚 / 体性感覚 / 練習 / 正確性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、演奏者に対して楽器が配置される角度や位置、手指・上肢等身体の使い方、そして演奏動作のターゲットとなるキーや鍵盤面全体のサイズが異なる鍵盤楽器の演奏について、演奏の実現に必要な情報の知覚認知-運動コントロールの方略を比較することで、様々な鍵盤楽器演奏に共通する知覚認知の働きと、楽器によって異なる働きにはどのようなものがあるのかを理解し、空間的に整備された楽器の演奏技能のしくみを記述することを目指す。 当該年度は、新型コロナウイルスの感染拡大による本務の教育業務の大幅な増量、また実験遂行上の制限により、研究を進めることに大きな困難が伴った。研究実績として可視化されない水面下の努力である、研究を継続するための環境改善は、次の項目、研究が遅れた理由に述べるように、当年度のエフォートの中の無視できない割合を占めた。様々な制約の中、進めることができた主な作業は、サイズと方向の異なる鍵盤楽器の演奏を比較する実験を行うために必要な楽器を買い揃え実験方法の検討を行ったこと、また、研究指導学生とのピアノ練習に関する共同研究の中で、片手練習と両手練習の効果を比較し、演奏に用いられる音域の違いや、音の数の違いが与える効果から、ピアノ演奏と、より小さな鍵盤楽器での演奏やその練習の特性を推測するということであった。後者に関しては、音域の広さ、片手・両手の効果と、演奏スタイル(リアルタイムに楽譜を読み取って演奏していくような演奏と、固有の演奏動作を記憶し遂行するような演奏)の違いによる演奏方略の違いに注目して考察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当該年度は、本来であれば実験の準備を完了させ、実際に演奏実験のデータを十分に集めるべき年度であったが、新型コロナウイルスの感染拡大による本務の教育業務におけるハイブリッド授業や複数教室への授業配信への要請や、教育実習のイレギュラーな展開等さまざまな面での業務の大幅な増量に、実験の遂行そのものの感染症防止上の制限も加わり、研究を進めることに大きな困難が伴った。以下に述べるように、実際の研究以前の問題状況と、その解決のために労力を割かざるを得なかったことが、研究が遅延した理由である。
コロナ禍が続くとともに増加していく教育業務の中で、いかにして効率化をはかり、また必ずしも研究代表者が行わなくてもよい作業全般を研究補助者に委託して、研究継続上の困難を乗り切るかという課題の解決に注力した。年度末近くになりようやく研究補助者を雇うことができたものの、事務的な仕事と当該分野の専門的な知識や研究経験を要する研究補助が入り混じった業務を、非常に限られたデスクスペース・トレーニング時間・予算の中で行ってもらうには、それらを総合的にこなせて専門性を兼ね備え、なおかつその予算の範囲で勤務いただける研究補助者に依頼する必要があり、まずそのような人材を見つけることが当該年度にあっては大きな仕事であった。こうした努力は研究内容として可視化されるものではなく、また、研究代表者に残された研究にあてられるリソースの中で、無視できない割合を占めたが、無事に条件の合う研究補助者を見つけ雇用することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、遅れている研究の推進には、研究できる状況(研究補助者によるサポート体制)の整備が何よりもまず急がれる。進捗状況の理由欄に記したように貴重な研究補助者を雇用したものの、本報告書作成現在は緊急事態宣言中であり、勤怠管理上リモートワークが認められず、またやや遠方に在住の研究補助者を危険にさらすことができないと判断したため、やむなく休業いただく状況となっており、再び研究の遂行に困難を抱えることとなった。感染状況が収まった時期においては、研究補助者のサポートを得て研究を進めていくことができると考えている。
その上で、教育業務の効率化とスリム化、研究指導学生の卒業研究と本研究課題の往還による効率化をはかり、また実験デザインの見直し・分割により、細切れの時間のなかで実験データを集め、研究を推進する策を見出そうとしている。実験デザインの見直しの方法について、十分に検討することはできていないが、例えば、サイズが小さく演奏者が保持することができる鍵盤楽器演奏における知覚認知と、マリンバのような大きな鍵盤楽器演奏における知覚認知を、88鍵ピアノのそれと合わせて一度に実験するのではなく、それぞれ別々に行うことで、実験の規模を小さくし、完結しやすくすることを考えている。ピアノ演奏にある程度習熟した実験参加者に、ショルダーキーボードを貸し出して一定期間学習いただき、まずはピアノとショルダーキーボードとでどのように演奏の知覚認知方略が変わってくるかを調査する。学習(練習)フェイズを設ける場合に、研究室にお越しいただくことを考えていたが、楽器を一定数購入し、実験参加者に貸し出すことで学習セッションの同席を不要にする。マリンバについては、感染状況が落ち着いた後に熟達者に参加を依頼し、ピアニストのピアノ演奏知覚認知との方略の比較を行う、といった手立てを検討している。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた学会が中止またはオンラインとなったことや、新型コロナウイルス感染拡大により出張が難しくなり、研究打合せに出かけたり、研究協力者を招聘したりすることができなかったために、旅費の支出がなくなった。また、実験実施に際し感染症防止の観点から通常の実験実施が困難となったことと教育業務の大幅な増大による実験準備の遅れが重なり、予定していた実験を行うことができなかったために、実験参加者への謝金の支出が予定より少なくなった。今後、研究時間の捻出に困難を抱える現職においても研究を遂行するための研究補助者の人件費、作業効率化のためのPCやその周辺機器購入、当該年度に行えなかった実験の遂行に伴う物品の購入や実験参加者謝金等に次年度使用額をあてて研究を進めていく予定である。
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