2019 Fiscal Year Research-status Report
概日リズム調節因子・メラトニンは血糖上昇ホルモンとして肝臓に作用するか?
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19K20129
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Research Institution | Matsumoto University |
Principal Investigator |
浅野 公介 松本大学, 人間健康学部, 助手 (70508449)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 糖新生 / PEPCK / メラトニン / H4IIE 細胞 / 転写調節 / インスリン / デキサメタゾン |
Outline of Annual Research Achievements |
肝の糖新生は、血糖の維持、および上昇に重要な役割を果たし、血糖上昇ホルモンによる糖新生系酵素遺伝子の転写促進により亢進される。一方、概日リズム調節ホルモンであるメラトニンが血糖調節、特に糖新生系に与える影響については、不明な点が多い。私どもは、予備実験で、ラット肝モデル細胞株である H4IIE 細胞を用い、メラトニンが転写レベルで糖新生系酵素ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ (phosphoenolpyruvate carboxykinase; PEPCK) 遺伝子の発現を誘導することを見出した。これは、肝において、メラトニンが血糖上昇に関与する可能性が示唆するものである。 そこで、本研究では、メラトニンが血糖上昇に関与するかどうかを明らかにするため、肝におけるメラトニンによる糖新生系酵素遺伝子の発現調節機構を in vitro および in vivo の両面から明らかにすることを目的とした。 研究を実施した結果、 H4IIE 細胞において、1) メラトニンは PEPCK 遺伝子の発現を誘導し、その誘導は遺伝子の転写レベルで生じ、またその誘導には新規タンパク質の合成を必要とすること、2) ラット PEPCK 遺伝子プロモーターの -467 ~ +69 の領域にはメラトニンに応答する正の転写調節領域が存在すること、そして 3) グルココルチコイドであるデキサメタゾンおよびメラトニンが相乗的に PEPCK 遺伝子の発現を誘導し、さらにインスリンはメラトニン存在下において PEPCK 遺伝子の発現を優位に抑制することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラット肝癌細胞株 H4IIE 細胞を用い、メラトニンが PEPCK 遺伝子の発現を誘導するかを検討した。様々な濃度、時間でメラトニン処理した結果、PEPCK mRNA 量が濃度依存的かつ経時的に増加した。 次に、その発現誘導に転写および翻訳が関与するかを、転写阻害剤もしくは翻訳阻害剤を用い検討した。その結果、その誘導は両者により完全に阻害された。 さらに、メラトニンにより PEPCK 遺伝子の転写が促進されるかを、レポーターアッセイにより検討した。その結果、ラット PEPCK 遺伝子の -467 ~ +69 までのプロモーター領域を含むレポータープラスミドではメラトニンによりプロモーター活性が上昇した。 最後に、この発現誘導がインスリンやグルココルチコイドであるデキサメタゾンにより調節されるかを検討した。デキサメタゾン処理した H4IIE 細胞では PEPCK mRNA が誘導され、この誘導はメラトニンでさらに促進された。これに対し、インスリン処理では、メラトニンの存在に関わらず PEPCK mRNA 量が低下した。 以上より、1) メラトニンは PEPCK 遺伝子の発現を誘導し、その誘導は遺伝子の転写レベルで生じ、またその誘導には新規タンパク質の合成を必要とすること、2) ラット PEPCK 遺伝子プロモーターの -467 ~ +69 の領域にはメラトニンに応答する正の転写調節領域が存在すること、そして 3) デキサメタゾンおよびメラトニンが相乗的に PEPCK 遺伝子の発現を誘導し、さらにインスリンはメラトニン存在下において PEPCK 遺伝子の発現を優位に抑制することが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
・in vitro で、H4IIE 細胞やラット初代培養肝細胞を、様々な濃度、時間でメラトニン処理を行い、これらの細胞における PEPCK タンパク質の発現変化をウエスタンブロット法により解析する。次に、in vitro におけるメラトニンによる発現誘導の挙動が in vivo でも同様か、そして、in vivo でメラトニンがどの濃度範囲で血糖を上昇させるかを調べる。 ・メラトニン応答配列の同定を行う。このために、様々な長さに欠失させた、もしくは点変異を与えたプロモーター断片を組み込んだコンストラクトを構築する。H4IIE 細胞にそれらを導入し、メラトニン存在下・非存在下でのプロモーター活性をデュアルルシフェラーゼアッセイにより測定・比較する。 ・メラトニンによる糖新生系酵素遺伝子の発現誘導が、受容体を介するのか、また、どのようなシグナル伝達物質が関与するのかを調べる。このため、シグナル分子に対する各種阻害剤や siRNA で処理した H4IIE 細胞やラット初代培養肝細胞を用いて、PEPCK および G6Pase 遺伝子の mRNA やタンパク質の発現をリアルタイム PCR 法やウエスタンブロット法により測定し、阻害剤や siRNA 未処理群と比較する。 ・メラトニン応答配列を同定できた場合、ゲルシフト法や ChIP assay を行い、メラトニンに応答しその領域に結合する転写因子を同定する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由としては、超低温フリーザーおよび冷蔵ショーケースの購入、および in vivo の実験の実施を次年度に変更した点が挙げられる。 次年度の使用計画は、物品費(設備備品費および消耗品費)として 1480 千円を計画している。さらに 、マウス個体やラット初代培養肝細胞を実験系に用いるため、実験動物費として 300 千円を計画している。 情報収集のための研究打ち合わせで学会等に参加するための旅費として 100 千円、本研究の投稿論文に必要な費用として英文校正費 30 千円、ならびに投稿料、および別刷費として 270 千円を計画している。
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